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Aは、操縦席の入り口に繋がる梯子をゆっくりと登って行った。
途中で彼女が、僕の方を振り返って云った。
月光に照らされた彼女の姿は、初めて会った時と変わらないようで、実はまるっきり変わっている。
「……基次郎」
生物の出せる、最も淋しげな声がそれだった。
「私の書いた紙……当然、持っているよな？」
「……うん」
僕は白衣のポケットから、四つ折りにされた紙切れを取り出した。
僕には読めない文字で、「銀河帝国宇宙大元帥外交大使地球特別派遣員梶井基次郎 この者の銀河帝国領内での、生存及び研究の為止むを得ず行った凡ての行為を罪に問わない 宇宙大元帥野田A」と書いてある。
「そうか」
月の光に決して劣らぬ星々を瞳の中に閉じ込めたまま、Aが云った。
「失くすんじゃないぞ」
「判ってるって」
彼女は梯子を一段登った。
「……今まで、ありがとうな」
「うん、こっちこそ、ありがとう」
また一段登った。
「――死んだりしたら、承知しないからな」
「君こそ、謀反とか革命とか暗殺とか、気を付けなよ」
最期の一段を登り切り、操縦席へ着いてしまった。
彼女は、僕に向かって云った。
「――また、逢いに来るからな――」
「逢いに来る、じゃなくて、迎えに来る、だろ」
「ああ、そうだな！」
彼女の瞳から涙が零れ落ちていく。
ゴーグル越しに見つめている所為か、視界が不明瞭だ。
「――またいつか――」
そう云い残して、彼女は操縦席の気密扉を閉めた。
ほんの少し会えなくなるだけの筈なのに。
何故か、もう二度と会えないんじゃないか、という錯覚を起こしていた。
「――さよなら」
ロケットの下部から白煙が出てきた。
嗚呼、もうすぐ打ち上げられる。僕は機体から離れ、静かにロケットを眺めた。
淡い月の光が生み出していた影が、ロケットの炎で打ち消され、周囲に爆音が響き渡る。
「いってらっしゃい、僕の宇宙大元帥――」
彼女を乗せたロケットは上昇を始め、見る見るうちに空へと上がっていく。
何とも云えない気分だ。
僕はその場で、じっとロケットを見つめていた。
声をかける間もなく、彼女は宇宙の彼方、恒星シリウスへと向けて飛翔し去って行ってしまった。
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七海の狐(プロフ) - 面白かったです！！あ、後、苗字が同じでびっくりしましたwこんな文豪さんがいるんだ…… (2018年9月12日 16時) (
レス) id: 65efb440a8 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - ノアの方舟さん» 過去捏造は二次創作の基本です。梶井の過去が明かされるのはいつの日か…… (2017年8月18日 7時) (レス) id: a477fda0e3 (このIDを非表示/違反報告)
ノアの方舟(プロフ) - 読みました！とても自分好みで面白かったです！こんな感じの本が出たらなぁと切実に思いました！ (2017年8月17日 23時) (レス) id: 2532ff5de4 (このIDを非表示/違反報告)
ねここ(プロフ) - キューブさん» それはむしろ嬉しいのですが…← 喜んで！← (2017年6月21日 6時) (レス) id: 13e2718d47 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - ねここさん» 気付いてしまいましたね……そんな貴女は残念ですが、宇宙大元帥の部下になっていただきます(嘘) (2017年6月20日 18時) (レス) id: a477fda0e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：キューブ | 作者ホームページ：
作成日時：2017年3月6日 14時
