49話 ページ5
貴「……」
渉「まぁまぁ、そんな目で見ないで」
睨みつける視線の先に、ゆったりと座る少年。つい先程まで恩人だった
貴「承諾しかねます。昏倒させられて無理やり連れてこられた相手に、警戒するなという方が不自然でしょう」
渉「手伝ってくれるとは言ってたじゃん?」
貴「限度があります!」
内容をちゃんと確認しなかった私も私だけど、着いてこいとしか言わなかったのもそちらだ。誘拐犯相手に道理を説いても仕方ないが
貴「まず、ここに連れてきた訳を話しなさい。それと、部屋に張り巡らされているこの結界を解きなさい」
渉「あら、そこまでバレてたか。侮れないね」
そう言うと、パチンと指を鳴らして素直に結界を解いた。予想外の行動にしばし困惑する
渉「訳は今から話すつもりだったよ。とりあえず落ち着いて話さない?」
その言葉を合図に、恐らく控えていたであろう女中が私の前に1人用の卓を設置し始める。そういえば、社を出たのがお昼前だったことを思い出した
あ、味噌……持ってきてくれたのかな。落としちゃっただろうし
渉「毒なんか入ってないよ。俺も同じだし」
いつの間にか、全く同じ卓が渉さんの目の前にあった。毒が入っていたら嫌だけど、腐っても私は山神の一柱。植物ならば見分ける自信はある……よし、特にない
渉「じゃ、まぁいただきます」
警戒はつきないけど、仕方ない。私は恐る恐る箸を伸ばした
***
むかしむかしあるところに、タヌキの里とキツネの里があった
ここの長は二匹とも変わり者のあやかしで、大層折り合いが悪かった
いがみ合いながらも大きないざこざなどなく、双方は平和に暮らしていた
しかしある日、里を災いが襲った
嵐に見舞われ、干ばつが起き、食べるものもなく、民は倒れていく。神々に助けを乞うても、跳ね除けられるばかり
最後に残った二匹はあやかしの力で、里を模倣した『夢郷』を作り上げた
それは命の灯火が消え、彷徨うもの達の一時的な避難場所となった
夢の向こうで夢を見ることが出来た彼らのうち、多くのモノが無事あの世へと旅立つことができた
いつしかキツネとタヌキ以外のものも集まり、かつての民だけではなく他の彷徨うモノたちの場所にもなった
それが、今日の隠れ里である
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作者名:笹乃葉 | 作成日時:2023年7月5日 18時