60話 ページ16
貴「いたっ!?」
濡れたままの顔を上げてしまったのは、不可抗力とも言える。無表情のまふまふさんがこちらを見下ろして、卑屈に笑った
ま「今のあんたは神でもなんでもない、ただの鬼でしょ。そんなもしものこと考えてどうすんの?」
手加減も何も無い言葉が、胸にグサリと刺さる。答えられないまま彼は話し続ける
ま「これはボクらの里の問題だ。いいか、ボクらは主以外の『神』に期待なんてしてない。
ましてや、客人の鬼に何か求めようなんて思わない。うらたさんだって、無理なことは初めからわかってた」
だから、といかにも不機嫌そうなオーラを全開にしてまふまふさんが言い放つ
ま「あんたが背負わなくちゃいけないことなんて何も無いよ。自惚れないで」
吐き捨てるように言って、話は終わりだと言わんばかりにサクサク歩いていく。しばし呆然としてしまったけど、もしかして……慰めてくれた?
気のせいかと思いつつ、彼の後ろ姿を追いかける。すると、ほんのり耳が赤くなっていることに気がついた
本当にもしかしてだけど、この前言ったことについて、彼なりに罪悪感を覚えていたのかもしれない。たたっと声が聞こえるくらいまでの距離に追いつく
貴「まふまふさんっ」
ま「……何」
貴「ありがとうございます。私に出来ることを頑張りますね」
振り向くことも肯定もしてくれなかったけど、「邪魔はしないでね」とだけ返してくれた
神使らしくはないけど、心根の温かい人だ。きっと上手くやっていけるだろう
***
物置とも呼べないような、小さな部屋
物のほとんどない部屋の奥に、鳥小屋ほどの祠がぽつんと鎮座している
その人物は部屋に入り、何事か呟いてから祠の前に正座した
懐から何かを取り出すと、祠の前にかざす。淡い光が生まれ、徐々に祠に吸い込まれていく
その人物は、光が吸い込まれていく様子をぼんやりと眺めていた。やがて光を失ったところで、また懐へと戻す
しばらくその場に座り続けていたが、ふと立ち上がって祠を見据えた
揺れる瞳に、確固たる意思はまだない。願うのは、願いたいのは、なんなのか
「……ごめん」
そうこぼして、その人物は部屋を去った
ただ一つ、名前のない祠を残して
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作者名:笹乃葉 | 作成日時:2023年7月5日 18時