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「太輔、言われたホテルにそろそろ着きそうだよ」
まさかこんな都心のホテルに場所を変えているなんて、と横尾は大きくため息を吐く。
「目的が北山を抱くことなら、どこでも良かっただろう」
少しずつ目的地に近づいていることが分かるように、掠れた音声がイヤホンに届く。ホテルの駐車場の入口付近で車はいったん停止する。
「どうする、太輔？」
ホテルまで乗り込む？と横尾は辺りを見回す素振りをする。駐車場に止まる高級車を二台見つけ、ここで間違いない、と大きく頷く。少しだけ待ってくれ、と藤ヶ谷はイヤホンの声に集中する。
「北山・・・」
「・・・うん、待ってる！急がないよ！」
大きな声を張っているからなのか、急にクリアになった北山の声に藤ヶ谷は聴き入る。そして、また北山の声が微かになり、藤ヶ谷はボリュームを一気に上げた。
「藤ヶ谷・・・俺・・・これから玉に・・・抱かれるよ」
――藤ヶ谷に愛されるために。
「・・・それでいい、北山」
かけた電話に反応がなくても、送ったメールに返事もなくても、その言葉で全ての状況を把握できた。これから北山は目的を果たすために玉に抱かれる。全ては今呟いた北山の――いやお互いの目的と願いを果たすためにどうしても避けては通れない道なのだから。
「いや・・・ここは北山に任せる。ホテルの裏の駐車場で待機しよう」
北山が上手くやってくれているようだ、と車の座席に深く腰を落ち着ける藤ヶ谷に、横尾は少し心配そうな視線を向ける。
「・・・本当にいいの？」
「ああ。下手に俺達に勘づかれでもしたら北山の身に危険が及ぶかもしれないしな・・・」
表は見張られているみたいだし、と藤ヶ谷は携帯に視線を落とすと、横尾は少し目を見開いた。
「そんな情報どこから・・・！ホテルの場所も的確に分かったみたいだし」
「・・・北山から随時連絡をもらっている」
「そっか、みっちゃん頑張ってくれているんだね」
じゃあ車を回すよ、と横尾はハンドルを切っていく。裏口側のホテルの駐車場に到着し、人目の一番つきにくい場所へと車を止めた。
「ちょっといったん車降りても大丈夫？ちょっと運転して疲れちゃって」
「ああ、こちら側には見張りはいないみたいだしな」
ちょっと背伸びだけ、と横尾は藤ヶ谷に笑いかけながら車を降りて、両腕を空に向かって伸ばし――その口元からは笑みを消した。
「太輔は何で俺と同じ的確な情報を・・・さてはあの三人の中に・・・」
***
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2020年3月9日 0時
