8-16 side:K ページ23
8-16 side:K
「・・・それでミツ、お返事は？」
けれど、つれなくされてもその心が見えなくても、俺はどうしようもなく藤ヶ谷に――妖艶な小悪魔に魅せられている。仮初めの優しさだろうと、利用されているだけだとしても、その腕に抱き込まれた瞬間の甘美を求めてしまっている。藤ヶ谷に愛されたい。本当の藤ヶ谷に触れてみたい。だからそのためにも――
――玉に愛されなければならないんだ・・・！
「玉が・・・俺でいいなら・・・」
「ミツ・・・ありがとう」
本当に嬉しい、と立ち上がった玉がイスに座ったままの俺をギュッと抱きしめる。玉の胸板に顔をくっつける形になる。次第に身体が熱く苦しくなってきて、ぷはっ、と大きく息を吸いこむように顔を上げると、玉の唇が重なって俺の体温は熱が逃げ場をなくしてグングン上がっていくようだった。
「んうっ・・・はっ、あ・・・玉ぁ」
「可愛いよ、ミツ。俺の天使・・・」
俺よりもずっと玉の方が・・・、と思いながらも、断続的に塞がれる唇に息が上がって言葉にできない。最後に玉の舌が俺の唇をペロッと舐めて、ようやく腕を絡めあいながら向かい合う体勢に戻る。
「・・・ステーキの味がするね、ミツ」
「もう、玉だって・・・」
「でもミツはお肉大好きだもんね？」
「うん、大好き！」
「俺とどっちが好き？」
さっきもこんな会話した気がする、と二人して顔を見合わせて苦笑いをしながら、今度は俺から玉の唇にキスをする。
「玉の方が・・・好き」
「お腹いっぱいだから？」
「もうっ！」
意地悪、と俺は頬を膨らませると、可愛い、と玉が俺の髪の毛をわしゃわしゃ撫でる。
「ごちそうさま、ミツ」
この食事のことなのか、今のキスのことなのかよく分からないまま、俺は満面の笑みを浮かべてしまう。
「本当に美味しかった・・・本当にありがとう、玉」
お腹を擦って、満腹のジェスチャーをすると、玉が満足げに微笑んだ。
「じゃあ・・・そろそろ部屋へ行こうか」
手をギュッと握られて、俺が反射的に身を強張らせてしまったのが伝わったのだろう――玉が優しく俺の手を撫でる。
「・・・う、うん・・・もちろん、玉・・・」
「そんなに震えなくても・・・今日は優しくするから」
気持ちよくもしてあげるし、と掬いあげられた手に玉の唇がチュッと触れる。先ほどまでのキスに浮かされた熱はもうどこかへ行ってしまったように、俺は身震いを抑えきれずにいた。
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2020年3月9日 0時
