8-15 side:K ページ22
8-15 side:K
「ご、ごめん、玉・・・乾杯・・・って、あ、でも玉はお酒飲んだらダメだよ、車だから・・・！」
俺の制止も聞かず、グラスを傾けてしまう玉に俺はあわあわしてしまう。もしかして帰りは俺があの高級車を運転しなければならないのだろうか、と俺はシャンパンを口に含んだものの飲み込めない状態になってしまった。玉がそんな俺に気がついてクスッと微笑む。
「ミツ、リスみたいになっているよ、可愛い」
シャンパン口に合わなかった？と玉が心配そうに見つめるので、俺はそのまま首を振ってゴクンと飲み込んだ。
「そうじゃなくて、車・・・！」
「大丈夫、車は取りにこさせるから」
「え、そうなの？」
「うん。それに今日の目的地はこの場所だしね」
それではわざわざ俺をここまで連れてくるためだけに車を新調してくれたのか、と考えると変な汗が出てきそうになる。そして、これでこの後、例のVIPルームまで玉に連れて行ってもらうこともできない――藤ヶ谷とよこーさんに音声は届いているのだろうか。俺はポケットの携帯電話が気になって仕方がなかった。もし二人から何も指示が来なかった場合には、俺が何か方法を考えないと、と思いながらも無意識にステーキを口の中に放り込んでいた。
「本当にお腹空いてたんだね、ミツ」
「あっ、いや、その・・・恥ずかしい」
こっちも食べてごらん、と玉にお肉を差し出されて、俺は条件反射的にパクッと食いついた。おいしい、ともぐもぐ食べていると、その顔可愛いなぁ、と玉がニコニコ微笑んでくれる。
「玉はいつもこんなに美味しいものを食べているの？」
お寿司も美味しかったし、と俺は玉に笑いかける。
「んー、あんまりご飯にこだわりはないんだけど・・・ミツと一緒に食べるご飯は美味しいし楽しいよ。毎日一緒に食べたいな」
「た、玉、またそんな・・・俺をからかわないで・・・っ」
「俺はいつでも本気だよ。大好きなミツと一緒にいたいんだよ」
その笑顔は本当に見惚れてしまうほど美しい少年で、その優しい言葉をたくさんくれる玉は本当に天使みたいだと――そう思うほどに自分が汚れているように思えてしまって仕方がなくなってしまう。欲しい言葉をおねだりしてもなかなか言ってくれない藤ヶ谷とは全然違う。そう言えば、定期的に何度か携帯が振動で着信を知らせてきているような気がする。藤ヶ谷――さっきの着信は何だったのだろう。今はどこにいて俺達を見張ってくれているのだろうか――
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2020年3月9日 0時
