6-6 side:K ページ8
6-6 side:K
「・・・良いけど・・・うちはホテルじゃないからね」
あんまり汚さないで欲しい、とよこーさんは困った顔をしている。
「えっ、ええっ！？」
「分かってる。一部屋借りるな、渉」
「ひ、一部屋って！？俺、藤ヶ谷と一緒の部屋なの！？」
「・・・別がいいのか？」
一緒じゃなきゃいろいろ教えられないけど、と顔を近づけて迫りくる藤ヶ谷に、俺は思わず顔を必死に背けてしまう。誘惑の仕方とか、汚さないで欲しい、とか二人の言葉の端々から感じてしまうこれからの展開が、容易に想像がついてしまい、俺は恥ずかしさがピークに達してしまう。
「え、だって・・・まだ心の準備が・・・」
「本当に可愛いな、北山・・・」
じゃあ早く心の準備をして、と藤ヶ谷が俺の髪の毛にそっと唇を寄せてくる。心拍音がどんどん――こんなのとてもじゃないけれど、いつまでも準備なんかできそうにない。
「こら太輔、みっちゃんをあんまりいじめるんじゃない」
純粋でいい子なんだから、とよこーさんの助け舟が入り、藤ヶ谷が少し不満げに俺から手を離す。熱がサーッと引いていくような感覚――不思議なもので触れられると胸が高鳴り過ぎてどうしようもないのに、今は切なさを感じてしまう。少しだけ続く沈黙――この空気感に堪えられずに俺はイスから立ち上がった。
「よ、よこーさん、ちょっとシャワー借りていいかな」
「いいよ、みっちゃん。そっちの廊下真っ直ぐだから」
ありがと、と微笑み、よこーさんの指先が向いている方向へ歩き出そうとしたとき、藤ヶ谷がそっと俺の手先に指を絡ませてくる。
「・・・心の準備って、俺に抱かれる準備のことだったんだな」
愛しいよ北山、と俺の手の甲にそっと唇を寄せる藤ヶ谷に、俺はもう自分の熱の逃がし方がまったく分からず茹ってしまいそうになる。
「も、もう勘弁してくれ！」
恥ずかしさのあまり俺はバスルームに向かって走り始めた。洗面所の前で衣服を脱ぎ捨ててバスルームに入る前に不意に鏡に映る自分の姿が見える。
「えっ・・・俺・・・」
まるで恋でもしているかのように綺麗な朱に染まる頬――俺は自分の手を掬いあげ、藤ヶ谷の口づけた手の甲に頬を寄せる。
「俺・・・一体どうしてこんなに・・・」
鏡の中の自分に問いかけても、その何を問いかけているのかすら分からず呆然としている。けれど、なぜかどことなく幸せそうで――焦がれるように自分の手の甲に唇を寄せてしまった。
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年7月25日 1時
