REAL Touch（藤北・玉北） (ページ6)

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乗り込む前に藤ヶ谷の顔を見つめると、無言のまま頷いたので、俺は玉の隣に乗ろうとした瞬間、あることに気がついてハッとしてしまう。
「あ、そういえば店のお会計・・・！」
　誰一人会計をしないで店を出てきてしまった気がして、俺は戸惑いながら車へと促す藤ヶ谷の腕を引く。そうは言ってもこんな店の相場なんか分からないし、正直パッと支払えるようなお金が財布に入っていたらバイトなんかしていない。藤ヶ谷がその手をギュッと握り返してくれる。
「・・・心配ない。玉の父親がここのクラブの経営者だから」
「えっ、そうなのか！？」
「渉の奴・・・本当にお前にさわりしか話さなかったんだな」
「ご、ごめん・・・」
「とりあえず今はそのままの感じで・・・」
「ガヤ、ミツ、どうしたの？」
　早く乗りなよ、と奥に座っていた玉が痺れを切らしたように手前に乗り出している。
「ご、ごめん。ここのお会計が大丈夫か心配になっちゃって」
「律儀だね、ミツ。ガヤに聞いたかもだけど、ここは心配いらないから」
　おいで、と藤ヶ谷に握られているのとは反対の手を取られ、勢いよく車の中に引き込まれる。
「わっ！！」
「ガヤも早く乗ってー！ミツはお腹が空いてるんだから」
「ああ」
　藤ヶ谷が乗り込み、扉が閉まると、車はゆっくりと走り出す。俺は後部座席で玉と藤ヶ谷に手を取られたまま、真ん中に挟まれていた。無意識に大きく息を吐き出してしまう。俺は正直この仕事を受けたことをちょっとだけ後悔してしまっていた。今までこんなに緊張して冷や汗をかくなんてこともなかったし。それにしてもいつになったら二人とも手を離してくれるのだろうか。初対面の男の手なんか握っていて楽しいのだろうか。でも自分から離して玉の機嫌を損ねたりするのがなんか怖いし、でもだんだん自分の手が手汗で汗ばんできている気がして、むしろそれで玉の機嫌を――見えない答えがぐるぐる脳内を駆け巡り、その回転で酔ってしまいそうだった。
「ミツ、お寿司好き？」
「・・・うん！」
　まとまらない考えを一刀両断されたように、玉の言葉に俺は笑顔で頷いてしまっていた。
「じゃあ俺の家に行こう。宅配してもらうから」
「すごっ・・・嬉しい、玉」
　クスッと俺を見て微笑み、玉は携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。どうやら凄いお家のお坊ちゃまであることは間違いないようだ。

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