4-1 side:K ページ24
4-1 side:K
大学は当たり前だけど広くて、たどり着いたとき藤ヶ谷は本当にそこにいるのだろうか――そんなことを考えながら俺は小走りでメモに書かれた教室に向かっていた。携帯を取り返さなければという名目がありながらも、俺はあんな目に遭わせた藤ヶ谷の元へこんなにも急くように――まるで何かに導かれているかのように足は止まらない。
「・・・B棟301研究室・・・」
いつも俺が通っている建物とはまた別で、こんな端の方まで来たことはなかった。すれ違う人たちも何だか頭の良さそうな人が多くて、俺は場違いのような気がして俯き加減で歩く。よく考えたら服装も昨日の格好そのまま――何事もなかったかのように昨日ジャケットを羽織る前と同じだった。藤ヶ谷なのか玉なのかよこーさんなのかは分からないけれど、下着も含めて直されたのかと思うと恥ずかしさのあまり顔から火が出そうになる。ようやくたどり着いた扉の前に立って、俺は大きく深呼吸を繰り返すと、その扉に手をかけた。薄暗かった廊下とは違う蛍光灯の光――
「・・・藤ヶ谷・・・」
白衣を纏い、何かの試験管を手にしてる藤ヶ谷――俺が部屋の中に入ったことが分かったのか、参考書らしきものに視線を落としていた顔を上げる。その瞬間は真剣な眼差しが眼鏡越しに俺を射抜く。昨日のラフな黒いジャケット姿からは想像もできなかった、名前しか知らなかった藤ヶ谷の正体――理知的なその姿に俺は一瞬言葉を失って見つめてしまったように思う。藤ヶ谷も俺をただじっと見つめている。
――まるで、時が、止まったかのようだった。
そして、どうりで名前を聞いたことがあったわけだ――大学の掲示板で見たことがあったからなのだ。学生にして研究論文が偉い人の目に留まり、特別な研究をやらせてもらっている人物がいると書かれていた。何て精悍な顔立ちをしているのだろうとマジマジと写真も見ていたのに、今の今まで気がつかなかった。今、目の前にいる藤ヶ谷はまさに写真と同じ――
「・・・北山、そんなところにボーッと立っていないで、こっちに来たらどうだ」
用件はこれだろう、と藤ヶ谷が俺の携帯電話を手にして見せる。ハッとしたように俺は藤ヶ谷に駆け寄った。藤ヶ谷は手にしていた試験管だけを机に戻すと、テーブルに寄りかかるようにして立っている。俺はその前に立ち、できるだけ毅然とした態度を、と睨みつけるようにして藤ヶ谷を見上げた。
「・・・携帯を返してくれ、藤ヶ谷」
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作者名:ほわわ | 作成日時:2019年5月7日 0時