5-1 side:K ページ30
5-1 side:K
「ルラルララ〜♪」
必死で駆けていったときとは違い、帰り道はとても心が軽い。思わずスキップでもしてしまいそうだった。結局、流されるような形で藤ヶ谷の申し出を受けてしまったのに、こんなに浮足立ってしまっているのか――心臓の高鳴りは相変わらず治まりそうになかった。よこーさんの事務所に行って、藤ヶ谷の帰りを待って、もっといろいろなことを教えてもら・・・いやこちらからいろいろ聞かないと、と俺は何度も大きく頷く。
「これだったら普通にお金を受け取っておけばよかったかな」
よこーさんにもよく謝らないと、と俺は頭をポリポリとかく。
「・・・あれ?」
トコトコ歩いている先に見える歩道に乗り上げてしまっている黒塗りの車――後ろのタイヤの付近には、しゃがみ込んでいる人の姿が――
「・・・あの、何かあったんですか?」
「あ、ああ、ちょっとタイヤがパンクしたかもしれなくて」
茶髪で鼻が大きい優しそうな男性が困ったような顔をしている。俺もつられるようにしてしゃがみ込んだ。
「俺の方が小さいから、奥の方を見ますよ」
「あ、本当にすみません。助かります」
「いえいえ、困ったときはお互い様・・・って、でもパンクしている感じでもないですよね」
どこが調子悪いんだろう、と車を覗き込み、俺は一度顔を上げた。どこかへ連絡しますか?と背後にいる彼に声をかけようとした、次の瞬間――
「・・・っ!!んん――っ!!」
突然口元にタオルのようなものを宛がわれ、びっくりして目を丸くしてしまう。その男の反対の回された腕に引き寄せられる形で引きずられる。降りてきた運転手のような黒服の男の人が後部座席のドアを開いた。このまま車に乗せられたら・・・という恐怖感に煽られ、俺は必死に抵抗を試みる。
「んっ!!んんーっ!!」
「・・・痛てて、随分と元気のいい子猫だなぁ」
何とか手を動かして、その男の胸板を一生懸命押すが全くビクともしない。優しそうな笑顔をしているのに、シャツの下に覗く肌はやたらと筋肉質で、俺は最早抱えあげられるようにして、車の後部座席に押し込められる。シートに倒れこんだ瞬間に、口の中に押し込められかけていたタオルが落ち、俺は何度も呼吸を繰り返した。
「や、やめろっ!・・・痛いっ!!」
――気をつけて帰れ、って藤ヶ谷に言われたばっかりだったのに・・・!
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作者名:ほわわ | 作成日時:2019年5月7日 0時