2-7 side:K ページ11
2-7 side:K
「・・・それも、分からない・・・」
「ふっ、分からないことばっかりだな、北山」
質問に質問で返す――意地悪な質問とは裏腹に俺の頬にそっと触れる手つきが優しい。まだ熱の残った唇にそっと藤ヶ谷の親指が触れる。その動作を熱っぽい瞳で俺は追うことしかできない。キスをされたことに怒りが込み上げるでもなく、悲しみに暮れるわけでもなく、初キスを奪われた動揺がないわけではないが、藤ヶ谷の言う通りすんなり受けてしまったのはなぜなのだろう。俺は自分の感情すら把握できないまま、藤ヶ谷にもたれかかってみた。
「・・・藤ヶ谷・・・」
すると、藤ヶ谷の腕が回され、肩の上に手が触れる。俺はそのことがちょっと嬉しくて小さく顔を綻ばせてしまった。すると――
「・・・玉が戻ってきたら・・・こういうことをしたりしてできるだけ気を引くんだ」
いいな、と藤ヶ谷が俺の肩をポン、と叩き、また自分の座っていたところへと戻っていく。先ほどまで包み込まれていた温もりと甘い香りがスッと引いてしまい、俺は切なくなってしまう。藤ヶ谷はまた携帯に目を落としているようだった。
「もしかして・・・今のって、ただの手ほどき？」
相手を懐柔するように抱き寄せて、触れて、キスをして――そういうことを玉にするように言われているのだろうか、と思ったら少しだけ意味の分からない苛立ちが沸き上がり、俺は頬を膨らませた。
――俺の仕事って、玉を誘惑することなのか？
人の気持ちを弄ぶなよ！と声にならずとも叫んでみる。それは玉に対してなのか、それとも――
「・・・意地悪」
「お待たせー！」
部屋のドアがガチャッと開き、俺の声をかき消すかのような大声を出した玉とカートを押してくる執事さんの姿が映り、俺はまた考える間もないまま、とりあえず座る姿勢を直してみた。膝に手を置いて寿司桶を持っている玉を見つめる。
「ミツ、お待ちかねのお寿司だよ」
嬉しい？と玉が俺の顔を覗き込むようにしてニッコリと微笑みかけてくる。
「う、うんっ」
「・・・あれ、何か顔が赤くない？」
熱とかないよね？とそっと俺の額に手をあててくる玉に、俺はさらに顔を赤らめてしまった。
「そのお腹ペコペコで・・・」
「そっかそっか、待たせちゃってごめんね」
いっぱい食べていいから、とテーブルの上に置かれたお寿司は何だか見たこともないくらいキラキラと輝いていて、俺は思わずゴクッと喉を鳴らしてしまう。
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作者名：ほわわ
| 作成日時：2019年5月7日 0時
