まえあし短編集(SS)～キスパ～(藤→北←玉) (ページ5)

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キスパ⑤(藤→北←玉) side:T ページ5

キスパ⑤

　そう言いながら、忙しなく上半身に身に着けていた衣服を脱ぎ捨て、一生懸命首を振り向かせるミツの顔を引き寄せて、何度も舌を絡ませあう。
“あっ、んっ、もう下のお口にも玉ちゃんをちょうだい・・・！”
「可愛い・・・もちろんだよ、ミツ！全部一つになろうね・・・！」

「裕太！」
　へ？と顔を声のする方へ向けた瞬間に布切れが飛んでくる。それをキャッチし確認するとハンカチだった。投げた横尾さんを見つめると、口の端に指をあてて、隣にいるミツを起こさないように口だけをパクパクと動かして何かを伝えようとしている。
「ん・・・よ、だ、れ・・・？涎っ！？」
　俺は慌ててハンカチで口を拭う。うんうん、と横尾さんは困ったような顔をして頷いている。ミツに対して抱いている邪な感情が全て伝い落ちてしまったようだった。
「やば、ミツにこんなだらしない顔、見せられない」
　窓に映した自分を見て身だしなみを整える。その時に映る隣に座るガヤの後頭部――ガヤがミツのことをずっと昔から好きなのはよく分かってた。そして、そんなガヤと今同じ気持ちを抱えることになって、大好きな人にはなかなか手が届かないもどかしさに悩まされていたんだってことも――どんなにはっきりと伝えてみたところで、俺達の恋しいミツは純粋すぎて気がついてはくれない。
「ねー、ガヤ・・・」

――今回、決着をつけようよ。

　いつまでも二人してモヤモヤしているくらいならいっそミツに決めてもらおう。俺とガヤのどちらの方が好きなのか、どちらとなら付き合ってもいいと思うのか――ミツにその気なんかなくても構わない。ミツの恋人になれる権利に近いのはどちらなのかを俺は知りたい。
「ガヤってばー！」
　そうは言ってもミツがガヤを選んでも諦める気なんてさらさらないけど――
　さっきから声をかけてもそっぽ向いたままで感じ悪いな、と思っていたら、ガヤはどうやら横尾さんを・・・いや、その隣で眠っている可愛いミツの寝顔に見惚れていた。俺は思わずガヤの肩に手をかけた。
「ガヤ、席を代わってよ！」
　俺もミツの寝顔がみたい、と俺は強引にガヤをどかそうとする。
「ふざけるな、北山の寝顔特等席を譲れるか！」
「いーや、もう十分ミツの寝顔を楽しんだだろ！」
「今から北山の寝顔で妄想を始めるところだから邪魔するな！」

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