12時に解ける魔法（玉北） (ページ9)

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12時を過ぎても③「・・・俺が連れて行ってあげるから」ページ9

エレベーターが開いて、玉に手を取られるまま俺は部屋のドアの前に立った。玉がカードキーをかざすと、この階には一つしかないらしい部屋の扉が開いた。チェックインも全て済ませてあったのかと思うと、玉の用意周到ぶりに驚いてしまう。
「・・・ミツ、大丈夫？」
　えっ、と俺は玉を見上げた。玉は少しだけ口元を緩ませて心配そうに俺を見つめている。
「大丈夫・・・嬉しいよ」
「・・・ありがとう、じゃあ入ろうか」
　手を繋いでいた指先が離され、今度は肩を玉に抱かれてホテルの部屋の中に入る。またドクンドクンと心臓が高鳴るのを感じた。さっきは咄嗟に聞かれて、嬉しい、と答えてしまったけれど、まるで期待していたように思われてしまうかなと思うと、何だか気恥ずかしくなってしまって思わず頭を抱えたくなってしまう。今日は玉の誕生日だから――玉にとって最善の俺でいたい。
「ミツ、この部屋さ、夜景が凄く綺麗なんだ」
　自分でハードル上げちゃったけど、と玉はクスッと笑う。今日は天気もいいから見晴らしもいいはずだし、と奥の窓を指差す。へぇ凄い楽しみ、と微かな月の光を灯す窓に向かって俺は子供のようにすぐに駆け出そうとした瞬間――玉の両腕に背中から抱き締められていた。うなじに玉の唇がそっと触れる。
「・・・俺が連れて行ってあげるから」
「あっ・・・」
　すると、玉が俺の両眼を優しく両の掌で覆い隠した。ゆっくり歩くよ、と耳元に囁かれ、ゾクッと自分の中で気分が昂ったのを感じた。一歩、また一歩とゆっくり着実に二人で歩みを進めていく。
「・・・もーいいよ」
　かくれんぼでもしているかのような声をかけられて、俺は思わずクスッと微笑みながら玉の両手を自分の瞳から離した。さてどんな夜景なんだろう、とワクワクしながら顔をしっかりと上げ目を見開いてみると――
「・・・あれ？まだ夜景まで距離あるよね？」
　先ほどよりは部屋の明るさを感じるもののまだ薄暗く、目的の窓にはまだ距離があった。どうしたのかなと思いながらも、玉ちゃんまーだだよ、と俺は先ほどの玉のセリフにひっかけるように笑いながら振り向いた。
「・・・ミツ・・・！！」
「・・・玉ちゃん・・・！？あっ！！」
　ドサッと大げさな音を立てて、部屋の中心に置かれているベッドの端の方に倒れこんだ。玉にとって――いや俺たちにとっての目的地は、この場所だったのかもしれない。

――現在の時刻、23時57分、そろそろ魔法が解けてしまう。

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