2-another-29 side:K ページ40
2-another-29 side:K
さあ、と有無を言わせない強い瞳に竦み、俺は腕を取られるまま歩き出す。制服に着替えて肩を並べて歩くのはいつもと同じなのに、お互いに言葉もなく、まるで他人と歩いているようだった。ただただ手首を掴まれている場所が熱くて痛い。教室の前に着き、俺が扉を開けるのをためらっていると、俺の肩を抱き寄せた藤ヶ谷がガラッとドアを開けた。教室にいた全員の視線が俺達に集中する。
「デビューおめでとうございます!それに婚約も・・・!」
「お二人が一緒になればこの街も安泰ですね!」
「・・・みんな、もう知って・・・」
男同士で婚約したという一大センセーショナルな話題はあっという間に広まってしまっていたようだった。声をかけてくる後輩たちも喜んでくれているようではあるが、動揺を隠しながら言葉を選んでくれているかのようだった。俺の肩を抱く藤ヶ谷を見上げると、表情は晴れ晴れとしていて、堂々とかけられる声に返事をしている。俺は押し黙ったままずっと表情を曇らせていたのだろう。不意にギュッと肩を強く掴まれびっくりしていると、藤ヶ谷が口角を釣りあげて俺に合図を送る――
――もっと、幸せそうな顔をしろ、と。
「北山さん、どうかされたんですか?」
「・・・いや、なんかみんなにお祝いしてもらって緊張しちゃって・・・みんなもびっくりしてるよね」
ふふっ、と笑顔を作り喜びの声に応えていく。
「太輔、おめでとう」
「ミツー!えー、本当にびっくりした!おめでとうー!」
横尾さんも千賀も嬉しそうに俺達に声をかけてくれる。大切なメンバーを見た瞬間にじわっと何かが込み上げてきた。笑顔を保つことが辛くて、藤ヶ谷から離れ、俺は一度廊下に出た。
「・・・玉ちゃん・・・」
「・・・ミツ」
いつもと何も変わらない優しい笑顔で歩み寄ってくる玉の姿に、俺は胸の前で手をギュッと握りしめた。二人の間に確かな約束をしたわけではないのに、まるで玉を裏切ってしまったような罪悪感が込み上げる。何で裏切ったのか、と責められるかもしれない――
「・・・良かったね、おめでとう。ガヤならきっとミツのことを守ってくれるよ」
ポン、と俺の肩にそっとすれ違いざまに手を置いて、何事もなかったかのように教室の中へ入っていく玉。その羽根の生えているような背中を見つめた瞬間に、無意識に涙が頬を伝っていた。
「俺は・・・本当に身勝手すぎる」
――本当は、責めて欲しかった、なんて・・・!!
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作者名:ほわわ | 作成日時:2017年12月6日 0時