きっと、何度でも【岩谷翔吾】 (ページ2)

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最後の日ページ2

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翔吾side

────────2014年6月

海と空と夕日と
その間を突き抜ける橋

夕日が沈む前になると
空も海もその色で綺麗に染まる

その時に見えるここからの景色が綺麗だってことは、ずっと前から知ってるけど
人気はいつだって少ない

だから、俺にとってちょっとした秘密基地だった

高校受験の前日も、数々のオーディションの前日も
ここに来て、心をスーッと落ち着かせるのが俺のルーティンみたいになっていた。

この場所を誰にも教えたことはなかった
だけど、Aにだけ教えたんだ

Aと会う、最後の日に

『綺麗だね、ここ』

翔吾「…やろ？」

いつもと違って口数が少ない
2人の間には常に一定の距離があって、ぎこちない

お互いに分かってたんだ。

翔吾「…A、ごめん」

『…うん、』

翔吾「ほんまに、ごめん」

『うん』

翔吾「…応援、してくれる？」

茜色をバックに、真っ直ぐに俺を見るA

俺って、ずるいやつだったと思う

そんなこと聞いても、返ってくる返事なんてひとつだから

『応援するよ』

Aは、必死に笑ってた。

聞いたのは俺なのに
その言葉を聞いた瞬間、涙が止まらなくなった。

俺の夢を誰よりも応援してくれた。
Aがいたから出来たことが数え切れないほどあった。

今日までの日々が走馬灯のように1つ1つ頭に巡る。

目から零れる涙の粒が大きくなって、気づけば俺は小さな子どもみたいに泣いていた。

こうなることを、俺も
きっとAも、分かってたのに

ここまでひきずってしまったのは、離れなければいけない事実を見ないふりをして
できるだけ長く、Aの隣にいたくて

そんな、ただの俺のエゴでしかなかった

翔吾「…ありがとう」

その声は、涙で震えてきっとはっきり聞こえなかったと思う
好きな人の前で、最後までかっこ悪い俺。

『翔吾くん、あのね』

翔吾「ん？」

『あの…今まで、ありがとう』

最後、Aが本当に言いたかったことは何だったのか
結局分からないまま、俺は彼女に会うことはなかった。

翔吾「気をつけてね」

『うん』

翔吾「…じゃあね」

“もう会わない”とは言い切れなかったけど
Aが言いかけた言葉を、俺が知ることはもう一生ないだろう。

あの声を聞くこともない

あの声で、翔吾くんって

俺の名前を呼んでくれることも