処方箋.21 ページ22
「……卒業後はどうするんだ」
「……」
「大学卒業後、どうするのか」
少しの沈黙の後、先生が口を開いた。
「卒業後」
その言葉に、不自然に胸が跳ねた。
「叔父がヒーローコーディネーターの会社を経営しています。 なので、大学に在学中は事務などの簡単な仕事を任せてもらい、卒業後は正式に雇ってもらって……」
「……」
「その後、三十路で独立する予定です。 ……コネなんて卑怯、だと思いましたか」
「……いいや。 おまえの場合、それに胡座掻いたりなんてしないだろ。 ……親族のコネだと思われないように、普通の人より何倍も努力する……おまえはそういうヤツだ。 だてに一年見てきたわけじゃない……それぐらいわかる」
グッと、心臓を鷲掴みされたような感覚。
「好き」
その二文字が、胸の中でのたうち回った。
言ってしまいたい衝動を堪える。
先生の顔を見られなくて、目を伏せた。
妙な沈黙が流れた。
顔を伏せているから、先生の表情はわからない。
しばらくして、先生が動いた。
ポケットの突っ込まれていた右手が、上へ。
頭を掻いているのだろう。
ガシガシ。
髪の擦れる音。
「……じゃ、俺はもう行く……受験、受かってこいよ」
すれ違いざまに、ポンと肩を叩かれた。
力強く、喝を入れるみたいに。
言葉にされなくとも、頑張れというエールは伝わった。
「先生！」
先生が振り向く。
いつかの職員室前と既視感を覚えた。
「卒業したら、一緒にお食事に行きましょう！ 二十歳になったら、お酒を飲みに行きましょう！」
身勝手な願望を、すらすらと並べる。
勤めて普通を装った。
けれど、少しばかり早口になっていたかもしれない。
先生は静かに短く、喉で笑った。
いつかの、柔らかい笑み。
私が好きな、あの笑い方。
「卒業したら、な」
大人ってずるい。
いや、好きになってしまった私が馬鹿だったのかも。
先生は知らない。
先生に会えることを期待して、あのコンビニに行く頻度が増えたこと。
いつかくれたチョコレートをスーパーで見つけて、衝動買いしてしまったこと。
教材にある先生の書き込みを、無意識に見つめてしまうこと。
そしてそれらをする度に、胸が切なく締め付けられること。
会えなかった。
話せなかった。
目が合わなかった。
それだけで悲しくなっていることも。
先生は、知らない。
……いや。
それらはきっと。
───知らなくて、いいことだ。
＊＊＊
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つめきわに - 違うお話ですみません。コメント失礼します。かりそめて接吻のパスワードはお教えいただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。 (2021年3月23日 23時) (
レス) id: fa5f26b543 (このIDを非表示/違反報告)
エイブル(プロフ) - ゆづしおさん» ぐはぁっ！「大好き」だなんてそんなありがとうございます！「先生の字が欲しいです！」って夢主様が言ったら「合理的じゃない」云々言いそうですけど、結局は書いてくれそうですよね…尊い…… (2020年3月7日 12時) (レス) id: ec408804c6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆづしお - この小説、心情描写がもう素晴らしくて大好きです…！！……あ、相澤先生の生字…金出してでも欲しいですな、10万までならOKですけど…プライスレスですよねぇ… (2020年3月6日 21時) (レス) id: a103d81c3f (このIDを非表示/違反報告)
エイブル(プロフ) - 絢兎さん» 順番前後してしまいすみません！教師から生徒……書いていて最高です笑 (2020年3月6日 21時) (レス) id: ec408804c6 (このIDを非表示/違反報告)
エイブル(プロフ) - xxvl6w6lvxxさん» 返信遅くなりすみません！相澤先生の字、生で見てみたいですよね……お気持ちすっごくわかります！ (2020年3月6日 21時) (レス) id: ec408804c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Able | 作者ホームページ：
作成日時：2019年12月26日 17時
