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「んで?今日はまた仕事入る〜とかいう可能性あるんじゃねぇーの?」
数年前の思い出を掘り返して彼女をからかえば、それを救って吹き飛ばすような笑いで、ないとはっきり言い切った。
「あの時の部下は今新人社員の面倒を見るくらいに優秀になったのよ?」
確かにそうだ。二年も経てば時の流れは早いもので、俺のグループはもう6年。彼女は雑誌の編集長を任されるほどの時間が経っている。
この関係も長くは続くと思ってなかったし。
元々、『こたぬき』である彼女は今だからこそ話してくれるが、当時はうらたさんに近づくために俺の好意を利用したと言っていた。
そんな一方通行の関係でよく二年も持ったものだ。
「志麻くんこそ、急に放送始めちゃ、嫌よ」
「お前が来てる時にわざわざするか」
なんのメリットがあって始めるんだよ、それ。確かにりす達は可愛いし、彼女の嫉妬姿とか見たいけど。彼女が分かりやすく嫉妬するとも思えないし、なんならそれを利用して倍返しされそうで怖い。
「ねぇ……、髪、乾かして。あの時みたいに」
彼女にしては珍しいお願い。基本イチャつくのも甘えるのも一切ない彼女の貴重なお願いに文句も言えず、前向いてとあの時よりも優しい声色で呟いた。
「寝んなよ〜」
「ふふっ。志麻くんがするの気持ちいいから、どうかしら」
コイツ…。分かっててわざとその言葉チョイスしよるな…。はぁ、。
彼女と居るとペースを乱されるというか、全てを見透かされているように思えてくる。俺の方は何一つ分かっていないと言うのに、理不尽な関係性だ。
彼女の中で俺の存在が彼氏に近づいているとしても、推しはうらたさんに変わりはないわけで、どうしたって勝てないその差を埋めるには何が必要なのだろう。
結局俺は、緑を引き立たせる為だけの色に過ぎない。
「ありがとう。もう、いいわ」
「ん」
俺と同じ匂いのする髪から離れて、ドライヤーを片付ける。風呂上がりで喉が乾いたのか、水貰うわ。と椅子を立った彼女は綺麗な歩き方でキッチンへと入っていった。
高飛車でクールというか、傲慢というか。そんな我が道を行く彼女が好きなんやけどさー。
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作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月6日 10時