【歌い手】それぞれのLastPhrase Ver,B【大型コラボ】 (ページ37)

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かち、かち、と時計の針が進む音がはっきりと聞こえる。
ちらりと時計を見上げるが、さっき見てから5分も進んでいない。

早く手術終わらんかな。
早くAの声聞きたい。
Aの手握りたい。
会いたい。
抱きしめたい。
キスしたい。

プロポーズしたい。

気を紛らわすように、イヤホンを耳に指し音楽を流す。
何も見ずに音楽アプリを立ち上げぽち、と押すと“With you”が流れた。

余計、空いた心の穴が大きくなった気がした。

「…結婚してください、かぁ」

ほんまはあの日、帰ったら言おうと思ってたのに。

でも、手術を終えて帰ってきた彼女にプロポーズをするなんて、映画みたいでいいなと思ったから、大人しくプロポーズの言葉を考える。

すると、赤く光っていた「手術中」という文字が消える。

やがて先生が出てきて、僕の名前を呼んだ。

やっぱり、僕はこういうときだけ読み取れてしまうみたい。

「手術は成功しました」

じっと、先生は僕を見つめた。

「＿しかし、声が、出なくなってしまった可能性があります」

そう言われた瞬間、僕は足から崩れ落ちた。

涙がぽたりと、床に落ちた。

×××

「……A」

風に髪を靡かせて、ぼんやりと窓の外を見つめる彼女の名前を呼ぶ。
ふ、とゆっくり振り向いた彼女は、ふわりと微笑んだ。手術前の彼女の顔によく似ていた。

るすくん

Aは血の気の戻った唇で、そう言った。
音はなかった。

彼女の鈴のような声がなかった。
…案外、彼女の命の代償は、重く辛いかもしれない。

目頭が熱くなった。

「…A、あんな、聞いてほしいねん。…Aのこと、幸せにする。声が出んくても、大好き。…、結婚してください」

そう告げると、彼女は病気だと分かっても流さなかった涙を溢れさせた。

彼女が言っていた、“言いたいこと”が、僕と同じならいいな、と思った。
ううん、きっと同じ。

だから、A。もう一度だけ、最後でもいい。その声で、返事を聞かせて。

秋風が、彼女の髪を揺らして表情を隠した。

こちらこそ

音はなかった。

ああ、最期の言葉が愛してる、なんて。そんなの残酷だ。

もう一生、離れられない。

×××

with you.

×××

fin.
しふぉん.