*** ページ13
「楽しかったなぁ…私の人生」
学校の屋上。
フェンスの向こうには自分が先ほど出てきた扉がある。
もう、私の人生は終わるのだ。
私が未来を変えるためにこうしてやってやらなければいけないから。
未来を変えるには、私が死ぬしかないのだから。
私が自分自身のこれからの幸せを拒んだのだから。
自分の大好きな弟や妹、お父さん、お母さん、そして──坂田も。
上を見上げれば、そこには太陽が目に染みる程にまで明るく照らしつけていた。
昨日は、この太陽が沈む頃に坂田と隣を並んで歩いた。
夕焼け小焼けのメロディが流れていて、それを聞き流しながら隣に並べていることにどぎまぎしていて。
でも、もう終わり。
坂田への想いも、私の人生も。
これで終わりなのだから。
そうして、私は足を一歩前に出して、そのまま空中に体を預ける。
空と一つになって、風と一体になって落ちて行く。
死ぬときの光景はスローモーションに見えると聞いたが、本当なんだなぁ、と最期まで呑気なことを考える。
走馬灯、だなんて贅沢なものを願ってしまう。
実際に今頭の中を走馬灯が駆け巡っているのだが、いい思い出ばかりではないのが何だか笑えて来る。
どうせなら、いい思い出ばかりにして欲しかったなぁなんて。
坂田と、友達でいたくなかった。
友達になりたくなかった。
私に向けてくれる人懐っこい笑みも、誰にも見せないような少し不機嫌な顔も、少年のような可愛らしい声で私を呼ぶのも、マフラーを巻いてくれた男らしい手も。
全て『友達』のものなのだ。
今更過ぎて彼に届く訳でもない。
けれど。
遅くなった。
「ごめんね、大好きだよ…」
嗚呼、落ちて行く。
走馬灯が私の人生のエンドロールのようだ。
坂田、私が死んだとしても、私のこと覚えていてね。
どうか、どうか覚えててね。
忘れたりなんてしないで。
神様、唯一の心残りがあるから。来世辺りではそれを叶えて欲しいな、だなんて願ってしまう。
「友達なんかで終わりたくなかったなぁ…」
坂田に届くはずもない涙が空に吸い込まれて行く。
流すだけ無駄なのに。
最期まで笑って居たかった。
私のこの想いが勘違いでも、そうだとしても。
ずっとずっと言いたかった。
言いたくて言えなかった。
臆病な私は言えないままだった。
「…さよなら、大好きだよ」
私の最期の言葉は、大好きな貴方に向けて。
39人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月6日 10時