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そうして子供を授かってからも、体調の良い日を探しては何度もこの海に来て。砂浜をゆっくりと歩いたり階段に腰掛けながら将来の話を沢山した。
「この子が大きくなったら、3人で来ようね」
「おう。何回でも」
「じゃあ、その時には....この麦わら帽子、この子にプレゼントしてあげようかな。」
「それなら....Aには俺から新しいの買って、あげる」
「ほんと？そしたら志麻くんの分も買おうよ。3人で麦わら帽子被ってさ」
「俺に似合う麦わら帽子なんてあるか？」
「きっとあるよ！....その時には、＿＿＿＿」
ここで笑いながらそんな話をしたのも....ついこの間の事みたいに、鮮明に思い出せるのに。
彼女は。Aは、4年前の今頃。春のとある日に、命を落とした。
死因は、羊水塞栓症による大量出血だった。
出産には立ち会って隣に居たけれど、途中からお医者さん達の様子が変わって。
助産師さんに外へと促される俺にどうにか手を伸ばして、ぎゅっと服の裾を握って「大丈夫」と言いたげに笑みを浮かべたAの手をぎゅっと握り返して、俺はその部屋から出た。
その後どれだけの時間だったか。部屋の中から産声が聞こえて、全身の力が抜けて。ああ、大丈夫だったんだ。そう思った。....でも、その直後。焦った様な助産師さん達の動きは増して、暫くしてそこから出てきたお医者さんの口から出たのは「Aが死んだ」という予想外の言葉だった。
最初はその言葉が理解出来なかった。何も分からなくて、いっそ俺も死んでしまいたいなんてしょうもない事も考えた。そのうちに病院から彼女の両親に連絡が行ったらしい。ただただ泣くしか出来ずにいた俺に、お義母さんが声を掛けてくれた。
「あのね志麻君。....A、日記を書いてるはずなんだけど」
「日記....ですか、」
「きっとあの子の部屋のどこかにあるはずだから、落ち着いたら探して読んでみてくれない？なんとなくだけど....私達じゃなくて、貴方が一番最初に読むべきだと思うから」
数時間でも寝ておいで、諸々手続きは任せてと言ってくれたご両親の言葉に甘えて一旦家に帰った。でも横になる気が起きなくて、話に聞いた「日記」を探した。予想外に呆気なく見つかったそれは文庫本より一回り大きいくらいの、少し厚めな2冊のノートだった。
丁度俺と会う少し前。「新しいノートに変わった。そろそろ今までの分を実家に預けようかな。」から始まったその日記には、いろんな言葉が並んでいた。
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作者名：作者一同 | 作成日時：2019年10月5日 5時
