＊＊＊ ページ33
雇いのものの声で目が覚める。
着替えながら、雇いのものに姫様、今日は十五夜ですよと言われ、今日が十五夜だという事を思い出す。
直ぐに天月様と見たいな、などと考えてしまう私はいけないのだろうか。
一緒に見ましょうと声を掛けるが、奥の部屋から天月様の返事が無い。
少し覗くと、なにやら真剣に何かを書いていたのでそのまま話し掛けないでおくことに。
夜になり、天月様が奥の部屋から出てくる。天月様の表情は暗く、挨拶をしようとした私も息が詰まる。
どうしたのだろうか。勇気を出して聞いてみる。
「…天月様、どうされたのですか？」
「A様…今日までこちらに住まわせて頂き、本当にありがとうございました。」
思わず目を見開いてしまう。
「僕は今日、月へ帰らねばなりません。貴女に会えて、本当に良かった。」
思考が追い付かない。
確かに以前天月様は帰れる事になったと言っていたが、こんなにも早く？
それに、
「月…ですか？」
「はい。もうすぐ迎えのものがやってきます、ですから、これを。」
本当に直ぐなのだろうか、天月様は焦った様子で私に文を渡して来た。
ちらりと奥の部屋に目をやると、そこには沢山の紙が散らばっていた。
「A様、それを読んで下されば、僕はもう何も言う事はありません。でも、これだけはっ……」
天月様がそう、何かを言いかけた時、襖の外から何か眩しい光がこちらへ近付いているのが分かった。
これが、天月様の言っている迎えなのか。そう思うと、体が勝手に動いていた。
このままだと、もう二度と、天月様に会えない様な気がしたから。
私は、天月様を抱きしめながら、必死に言葉を紡いでいく。
「天月様、駄目です、行かないで下さい。私はまだ何も言いたい事を、言っていません。」
それを聞いた天月様は、困ったような嬉しそうな、そんな顔をしながら。涙を流して、こう言った。
「大丈夫です、僕はいつだって貴女を、あの月から見守っているから。」
いつの間にか開いていた襖の先を見ながら、天月様はそう言った。
その瞬間先程よりも光が一層強くなり、私の腕の中にいた天月様は、迎えのものに手招きされ行ってしまう。
月のものたちは皆、美しく。また、あの時、天月様に初めて会った時の感覚に陥った。
足が動かない、呆然と立ち尽くしていると、天月様がこちらに向かって走ってくる。
「最後に、最後にこれだけっ…」
そう言って私を抱きしめながら。
「僕は＿＿＿＿＿＿＿＿＿」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 44人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：作者一同 | 作成日時：2019年10月5日 5時
