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次の日、私はその純粋な心から目を背けたというのに、運が悪かったのか良かったのか、昨日の彼とぱったりと会ってしまった。
しかも彼はマンションの隣に昨日引っ越してきた隣人だったらしく、私の顔を見ると驚いた顔をしつつも嬉しそうに、そして恥ずかしそうにして微笑んだ。
私がその笑みに会釈すると気を遣ってか一定の距離を取りながらも私の傍に来て、何やら京都と書かれたお土産を渡された。
挨拶用のお菓子かな……随分と律儀な方だ。
今は出ていない人に対する殺人衝動に安心しつつ、隣人になるのだから、と、とりあえず挨拶を済ませる事にしてそれを受け取りつつ会話を繋げた。
「……あ、えと、昨日はすみません。ビックリしましたよね」
「い、いえ、大丈夫です」
「でも俺、ほんまに一目惚れしてもうて……それに、あそこで声を掛けなきゃもう二度と会えない気がして……それで、瞬間的に腕掴んじゃったんです」
まぁ会えちゃいましたけどね、なんて言って恥ずかしそうに笑った彼は折原さんというらしい。珍しい名字だななんて呑気なことを思った。
それと、見た目的に大学生……かな。多分歳上だ。
ていうか、昨日はよく見ていなかったから分からなかったけれど、かなりのイケメンだった。私の方をちらりと見ては赤くなっていく顔が気にならないくらいにイケメン。
のんて余計な事を考えながらぼーっと彼の事を眺めていると、無言の私を体調が悪いと勘違いしたらしい折原さんは「え、もしてかして体質悪いんですか?!」と焦った顔をしてあたふたとし始めた。
「あ、まって救急車とか……は大丈夫ですよね?!えと、こういう時って何すれば……」
「ぷっ……っふふ、大丈夫ですよ。ただぼーっとしてただけですから」
「え……ほ、ほんまに大丈夫ですか?」
「ほんまですよ?」
「ぁ、よ、よかった……あ、あの、俺だけ妙にテンパっちゃってすいません。やっぱり、気になる人の前やと繕えないみたいで……」
かっこ悪いよなぁ、と言って恥ずかしそうに頬を掻いて見せた折原さんに、胸がキュンと縮まったような気がした。
昨日の予感は的中。
少し話しただけなのに、私は彼の可愛くもある不器用な部分に見事に心臓を撃ち抜かれていた。
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作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月5日 5時