≫7話 ページ10
お兄さんが家に不法侵入した日から5日が過ぎた。
未だお兄さんは来ることはなく、自分の戸締りが出来ていなかっただけだったのではないかとか、実は夢だったんじゃないかとか考えていた。
味も香りも全て幻で、実は全て夢だった。そう言われても納得する程に何もない。前よりも戸締りの確認は念入りになったから、夢でもよかったのだろう。
あの時の冷蔵庫の中身が減っていたのは無意識に料理をしていたのだろう。だからきっと不法侵入なんてされてない。
そうに決まってる。
そう思いつつ、玄関の鍵を開け、扉を開く。
『ただいま……』
「おかえりなさい。Aさん」
『……フラグ？？』
夢ではなかったようです。
先日と同じく、シンプルなエプロンを着けたお兄さんがリビングへ続く扉から顔を出していた。
先日と同じように玄関から出ていかなかった自分を褒めながら、玄関の靴を確認する。私が履くにしてはとても大きい靴があり、きちんと揃って端に寄せられている。
『お兄さん……』
「ん？どうしたの？」
お兄さんは、近くに歩いてきていた。高い背を屈んで下げて、話を聞く体勢にしてくれる。
この人は優しい人、なのだろう。だからこそ、この間は言えなかったことを今日は言うんだ。
『不法侵入です』
お兄さんは、え？と呟きながら数回瞬きをして固まっていた。
しかし、私は揺るがない。だって、どこも完全に鍵を閉めていた。つまり、玄関の鍵やどこかの鍵を開けて家に上がっていることになる。完全に入るつもりであったということ。
ご飯を作ってくれることが嫌というわけでもない。帰った時に人がいることが嫌というわけでもない。
ただ、純粋に不法侵入なのだ。お兄さんがしていることは、不法侵入という犯罪であり、尚且つ何故か料理を作っている。
『通報はしません。特に何かを盗られたとかもありませんでしたし。ご飯も美味しかったので安全だと思ってますから』
「なら、これからも来るね」
『え？』
「来るなって訳ではないんでしょ？なら、俺は君の、Aさんの健康的な生活の為にこれからも来るよ」
お兄さんは嫌なら嫌って言ってね。と言って台所に戻って行った。
嫌では無いから不思議なんだ。むしろ、安心してるから問題なのだ。
『やっぱり、何か変だ』
胸の奥が少し暖かいような感覚は、出迎えがあったからなのか。昔を思い出すからなのか。
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作者名：ゃ | 作成日時：2024年2月29日 23時
