≫6話 ページ9
「……まぁ、こんな時間までほとんど初対面の人がいたら怖いよね。ごめんね」
お兄さんは私の考えていることがわかったのか、それとも考えてそう思ったのかわからないが、謝ってきた。
そして、もう帰るねと言ってきた。
何故か私も申し訳なくなってしまう。けれど、ここで謝ったり頼ってしまうのも違う、と思う。だって、この人は不法侵入者で、ほとんど知らない人で。
ただ、美味しいご飯と暖かい部屋、そして「おかえり」の一言。それらはとても嬉しかった。
『……ご飯美味しかったです。ありがとうございました。あの、玄関まで送ります』
「……やっぱり、君は律儀だ」
『えっと？』
お兄さんは、なにか小声で言ったけれど聞こえなかった。聞き返すといや、大丈夫だよ。とだけ言って、玄関の方へ歩いていった。そういえば靴あったっけ？？見てなかったな、などと考えながら、お兄さんの後ろを歩く。
端に寄せられていた、見知らぬ大きい靴を履いて、お兄さんは立ち上がる。
「ちゃんと戸締りするんだよ」
『あ、はい！』
「じゃあ、おやすみ」
そう言ってお兄さんは玄関から出ていった。
……ちょっと待って？？私、確か玄関の鍵も窓の鍵も閉めて、バイトに行ってたよね……？？やっぱりどこから入ってたの？私が帰ってきた時、玄関の鍵は閉まってたし……
『不思議なお兄さんだったなぁ』
私に健康的な生活を送って貰う為って言ってたけど、健康的な生活をしてると思うのだけれど。
また明日とかは言って無かったから、もう来ないよね？……来ないと思いたい……
今日はなんかどっと疲れた気がする。早くシャワーを浴びて、寝よう。
疲れたけど、あのご飯も暖かくて明るい部屋も悪くなかった。お父さんとお母さんがいた時のような暖かさだったから。
ただ、流石に知らない人が部屋にいるのは怖いかもしれない。
なんで、私なんだろう。
配達のお兄さん以外で会った覚えはない。だって、あの瞳を見て忘れられるはずない。あんな綺麗な色、空以外で見た記憶ないよ。
あの色に似た子なら会ったことがある気がするけれど……
もう少し赤みが強かったような……よく思い出せないな。
とりあえず、早く休もう。明日も大学とバイトがあるから。
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作者名：ゃ | 作成日時：2024年2月29日 23時
