≫10話 ページ13
残った料理を半分に分け、家にあるタッパーに詰めていく。
思ったよりも多く作ってくれていたみたいで、明日の昼に食べても残る程だった。
タッパーに詰めて、袋に入れていると、ある事に気がついた。
「本当にこんなに持って帰っていいの？」
『元はお兄さんが作ってますし。それに、沢山あっても多分残しちゃうので』
「確かに、そうかもね」
お兄さんは前回と今回の私の食事量を思い出したのか、何か考えながらしみじみと言っていた。
そして、玄関へと足を進める。私は、タッパーの入った袋を手に持ったお兄さんの後を静かについて行く。
「じゃあ、タッパー返しにまた来るね。戸締りもちゃんとするんだよ」
そう言って玄関の扉を開けて、出ようとするお兄さんに、声をかける。
『あ、あの！お皿洗いとか、片付けとか、ご飯も！ありがとうございます！……せらふさん』
何故か名前を呼んだ後、目を合わせることが出来なかった。目線はお兄さん、もとい、セラフさんの持っている袋まで下がってしまった。
セラフさんがどんな顔をしているのか見れないが、今は動いていない。怒っただろうか。そのようなことを考えていると、セラフさんはまた動き始めた。
「……こちらこそ、食べてくれてありがとう。Aさん。じゃあ、おやすみなさい」
『は、はい！おやすみなさい』
ﾊﾞﾀﾝと扉が閉まった音が聞こえた後、その場にしゃがみこんでしまった。
感謝の言葉を伝えるのも、名前で呼ぶのも、当たり前の様にしているのに、何故か緊張した。心臓がバクバクと音を立てている。
これはきっと恋では無い。ただの、緊張だ。
深入りしていないか不安になって緊張してただけ。
名前を呼ぶことを許された、と思っていいのだろう。
少しずつ心臓も落ち着いてきたし、力が抜けていた足も立てるようにはなっているだろう。
壁を伝いつつ立ち上がり、玄関へと向かう。
鍵を閉め、玄関付近の電気を消し、台所へゆっくりと歩く。今日はセラフさんのお陰で洗い物が少ないから、早く眠れそう。早くお風呂に入って早く寝よう。
今日の夢はキラキラとしているような気がするから、今から寝るのがとても楽しみだ。
そう思いながら、鼻歌交じりに洗い物を片付け始めた。
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作者名：ゃ | 作成日時：2024年2月29日 23時
