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背後に立たれたことにその瞬間気づいた侯爵は、一度その事実に驚いた。
そして、現れたのが彼――ユアンであることに。美しい二色の瞳を持った。――かつての、お気に入り。曇らない瞳を。それはそう、今も。そんな瞳を持った。いくら蹂躙しようとも汚れを知らず。ゆえに、いくらでも汚してやりたくなった!
十年以上前から内々に探していた相手。――もう見つかることはないだろう、と諦めていた相手との再びの邂逅に、侯爵の心はひそかに踊った。彼にとっても、ユアン・ブルーフォードは因縁の相手だったのである。そのまま高笑いでもしたくなる心地を抑えて、彼は静かにほほ笑んだ。
「……やあ、もちろんだよ。死にぞこないの、裏切り者の――役柄通り、卑怯なオオカミ」
そうして侯爵は横の男へ目配せをした。それに無論ユアンは気づいていたが、彼もまた笑みを浮かべたまま動かない。そのまま男の右手が彼へ伸び、軽い電流がほとばしり、そのまま彼は地に崩れ落ちた。ケントは息をのみ――そしてルカは、分かっていた、とでも言うように目を伏せる。もう止まらない、彼の判断に任せるしかない、とどこかで感じていたらしい。
「約束だ。このキツネは好きにしていい。さあ、それでは――『ある程度までのところ、所有が人間をいっそう独立的にするが、一段進むと所有が主人となり、所有者がドレイとなる』」
そしてその後の地には、一人の少年と馬車と。
「ユアン、さん……」
一人の少年の、嘆きであり――「彼」には賞賛に聞こえるであろう言葉が残った。その言葉を風がさらっていった頃、少年は馬車の中へ運ばれ、ひときわ大きな鞭の音と、馬のいななきが響いた。
手綱を握っているのは、意思をくみ取った一人の青年である。
夜明けはもう、近い。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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