一杯のカクテル。【中原中也】

▽カカオフィズ ページ6

「お、Aさんじゃねェか。何してんだ？」

缶珈琲を持った中也さんがひらひらと手を振る。


「買い出しです。材料足りないことに気付きまして」


「ほー。お疲れなこった」


そう言うと、彼は視線を上から下へと滑らせる。
何かおかしいのかな、としばらく考えていると今の自分が私服姿だと気付き、違和感でも抱いているのかと思って「えっと、私服で失礼します」と謝った。


普段のバーテンダーの制服とは違い、今の私は、何度も着てくたくたになった紺色のワンピースに長めの白いカーディガン、とお世辞にもお洒落とは言えない格好。


おまけに普段は一つにまとめている髪も生憎ヘアゴムを持ち合わせていないので下ろしたままだ。


「本当すみません、私服なんてみっともない姿お見せしてしまって」


「そんなことないだろ。雰囲気変わって良いんじゃねぇか？
制服姿も良いけど、今の格好も女らしくて俺は好きだぜ」


きゅ、と目を細めて笑う中也さん。
ばくばくと鼓動の音が早くなる。


「そ、そうです……か？」


心臓がうるさい。
顔に熱がどんどん集中していくのがわかった。


「……中也さんは、これからお仕事ですか？」


「あぁ、夕方から企業との会食があんだよ。
だから今日は行けねェんだ。悪いな」


「そうですか……では、これから準備があるので。お仕事、頑張ってください」


じゃあな、と手を振る中也さんの顔を見ないように、ほとんど逃げるようにして公園を出た。



・



こつ、こつ、こつ。

革靴の踵がアスファルトに当たる音を聞きながら、私は魂が抜けたように歩いていた。


ぎゅうっと締め付けられるような胸の痛みと、鼓動の早さ。胸の高鳴り。



この感覚を、私はどこかで体験していた。




そうか、この痛みの名前は＿＿＿＿











＿＿＿＿＿＿『恋』だ。


*♡*

カカオフィズの意味は『恋する胸の痛み』

*♡*

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ミコより感謝の言葉。

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