葛藤 ページ35
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一瞬驚いた顔をした先輩は、その後すぐに「ふーん」と私たちのことを見比べるようにして「じゃ真宮また明日〜」と手を振って駐車場へ向かってしまった。
もちろん雨は止んでいないし、なんなら雨足は強くなる一方だ。
「…何すんの」
折角先輩が送ってくれるって言ってくれたのに、北斗は一体何がしたいんだ。
掴まれたままの手首が熱い。
「会いたかったって、何？」
「…は？」
真っ直ぐと私の目を見てそう言った北斗の神経が分からない。なんなの。6年前から、北斗は何がしたいんだ。
勝手にキスして期待させて、急に突き放したと思ったらそのまま卒業。6年ぶりに会ってもまだ冷たいままで、それなのに今、わざわざこんなことを聞くために話しかけてきて。
ずっと振り回されてばっかりでこっちも腹が立ってきた。
「…なんでもないから、離して。もう帰る」
「待てって、聞いて欲しい話がある」
「私は聞きたくない」
振りほどこうとしても手首を握る力は強くなる一方。
今更改めて突き放されるって分かっていて、誰が話を聞きたいと思うだろうか。そんな言葉聞きたくない。
「離して」
「離したら逃げるでしょ」
もう嫌だ、分かってる。聞きたくない。
「…A、頼む」
それなのに、北斗はやっと私の名前を呼んで、思わず見上げると不安そうに揺れている瞳。
何かを恐れているような、でも決意の見えるようなその目に、折れてしまった。
「…分かったから、離して」
逃げないから、と言うと北斗の温もりが離れ、開放された手首に安堵する。
「ここじゃ…あっち行こう」
向き合ったまま立つ私達を退勤した社員たちが好奇の目で見てくるから、正面のエントランスから少し避けた所に移動した。
2人で壁に背を向けて並んで立つ。外の湿った空気に触れてしばらく経ったからか、緩く巻いてあったはずの毛先のカールが落ち始めていて少し落ち込んだ。
「多分また傷つける、ごめん」
右側に立った彼は唇を結んでまだ迷っているような表情で俯く。
「また」って言うってことは、自覚はあったんだ。なんて冷たい事を思ってみたけど、根は優しい北斗の事だ。彼も彼で苦悩を抱えているのかもしれない。
「6年前の事、聞いて欲しい」
雨音に負けてしまいそうなくらい小さな声で、だけど何かを決心したように、北斗は口を開いた。
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fm - すごく引き込まれる文章、物語の構成でした。言葉選びも素敵であっという間に一気読みしました。高校生の頃のあの、焦ったい青春を思い出すことができました。ありがとうございました。 (2022年2月6日 11時) (
レス) @page49 id: fa24b69ff2 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - yanchahime3014さん» 初めまして！青い鳥まで来てくださって嬉しいです、ありがとうございます。優しいコメントをくださる主様が来世こそは｢好きで悪いかぁ｣されますように。 (2020年6月29日 22時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
yanchahime3014(プロフ) - はじめまして。引き込まれて一気に読ませていただきました。そして、青い鳥のフォロー申請させていただきました。切なかったけど、幸せになってくれて本当に良かった。私も「好きで悪いかぁ」ってされたい人生でした。 (2020年6月28日 18時) (レス) id: 7c22139847 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - しろくまさん» 始まりとエンドロールにもコメントを下さってありがとうございました！泣いてしまっただなんて…しかも2週もして下さったなんて…もっとしちゃって下さい！(厚かましい)今後も楽しんでいただけるように頑張ります！ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ文庫(プロフ) - 杏奈さん» 最後までお付き合い頂きありがとうございました！おお！そのセリフがあってこそのこのお話だと思うので気付いて頂けて嬉しいです。もう少しですが是非お付き合い下さい！^^ (2020年6月3日 0時) (レス) id: 787b8d528e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヨモギ文庫 | 作成日時：2020年5月5日 13時
