焼却を望む画家 (ページ9)

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八話ページ9

悪魔学校”バビルス”。13冠にして魔界三傑の一柱でもあるサリバンが理事長を務める、全6学年在校生666人の魔界でも指折りの学校である。多種多様な悪魔達が通う学校で入試三位の成績で入学したルティフィは、入学式をサボっていた。否、正確には入学式開始の時間になったことに気が付かなかったのだ。

バビルスの校舎のどこかの廊下の床。普段は何の変哲もない白い床は、足を踏み入れることを躊躇ってしまうような圧倒的存在感のある作品に生まれ変わっていた。黒と紫と濃い青色と、血のような赤の四色のペンキだけを使って描かれた作品は、一歩足を踏み入れるだけで底知れぬ深淵に落ちてしまうような禍々しい雰囲気を醸し出している。もう十分素晴らしい作品だといえるのに、この絵を描いた本人はその出来に納得していないのか、今度は袖から深緑色のペンキを取り出した。

驚くほどの集中力。飽き性の悪魔にとってなにかに没頭するというのは酷く困難を極めることである。それを全く微塵も感じさせない姿は、通行したくても出来ない生徒達を魅了した。そこに一人の教員がやって来て、野次馬となっている生徒達を一人残らず退散させると、掌に紫炎を出すと綺麗にペンキだけをもやし尽くした。

『ぁ、旦那様！！』

あっという間に燃やされる絵を羨ましそうに熱の籠った瞳で見つめていたルティフィ。しかし、愛する夫を見つけた途端に花が咲いたような華やかなの笑みを浮かべて、煙草片手にルティフィに見惚れていたエイトに抱きついた。それを難なく受け止めたエイトは煙草を燃やすと、抱き上げて生徒がいない道を選んで歩き出す。

「ねぇ、僕のティフィ。入学式の開始時間を忘れてない？」

『…………申し訳ありません』

「もう入学式は終わったよ。大合唱があったはずだけど、あの様子じゃ聞こえなかったみたいだね」

バツが悪そうに視線を逸らしたルティフィに苦笑い浮かべてしまう。認識阻害の術をかけ、彼らが向かう先は理事長室。無事に入学出来たことを報告と挨拶するために向かっている。
何故、教員の妻という特殊な立場にいるだけの彼女がわざわざ理事長に挨拶をしに行くのか。それは、ルティフィが元祖返りに堕ちてしまった際に様々な問題が発生したのだが、ほとんどを解決する上で手助けをしてくれたのがサリバンであるからだ。ここへの入学も進めてくれたのもまた、サリバンである。