焼却を望む画家 (ページ6)

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六話ページ6

目の前に立ち昇った紫の炎柱を前に、エイトの父とルティフィの祖父は協力して行動を起こす。幸いにして炎は建物や部屋に置かれている家具を燃やしてはいないが、いつ燃やす炎に変わるか分からない。
まず動いたのはエイトの父。炎柱に手を突っ込んでエイトの首を掴み、そのまま庭にある池に放り込む。ルティフィの祖父は素早く金色に輝く牢を描き出して炎柱から解放されたルティフィを閉じ込める。
掛かった時間は0.6秒。瞬殺である。
頭から水を被ったエイトは落ち着きを取り戻して、目の前に仁王立ちする父を見上げる。

「何か申し開きはあるか、エイト」

「……ありません」

「あと少しで悪周期に入りかけていたぞ。そんなにピクトゥーラ嬢が気に入ったのか？」

「ピクトゥーラではないです。僕の”妻”なので、イフリートです」

「…………………まだ結婚してないだろう」

笑顔を浮かべたエイトに呆れた表情を見せる父だったが、パリンと硝子が割れる音と辺りに広がる魔力に背筋が凍る。魔力の発生源の方を見ると、そこには果てしない喪失感と怒り、絶望、そして虚無を混ぜ込んだ漆黒の瞳を携えた美少女がいた。浮かぶ紫紺に染まった純白は跡形も無い。
彼女を捕らえていた牢は粉々に砕け散り、彼女の祖父が傍らで倒れ込んでいるが、意識はあるようだ。

「……まさか、元祖返りか」

「元祖、返り……」

「あの様子だと、元々なりかけていたんだろう。何かがきっかけで引き金を引いてしまった」

父の言葉にエイトは言葉が詰まる。何かではない、原因は自分なのだとはっきり認識しているからだ。最後の引き金を引けたことへの歓喜に包まれるが、このまま被害が拡大すると二度と妻に会えない絶望に恐怖する。故に、

「妻のことは夫である僕に任せてください」

「……戻せるのか？」

気付かぬ間に後ろにいたルティフィの祖父に問われたが、エイトは黙って首を振る。新たな起点となった自分がこれから先、妻の傍に居続ける限り、深く堕ちて沈んだ彼女が元に戻るはずなどない。かといって、離れたら今度はこれから引き起こされる以上の被害から処罰対象として魔関署の役員に連行されるだろう。

「今の僕にできることは妻を正気に戻すことと、周りに被害が出ないよう、徹底的に”教育”することだ」

そう宣言したエイトは、正気を失い、静かに暴走するルティフィに近寄る。イフリートの炎を操って、もう一度二人だけの空間を作り出した。
今度こそ、応えを伝える為に。