焼却を望む画家 (ページ16)

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十五話ページ16

理事長との会話を思い出しながら、目の前で僕を警戒する顔の上半分を認識できない生徒を見つめる。顔が認識できないのは、とても強い認識阻害がかけられた面布のおかげだろう。

『……確かめるとは、何をするのですか。何を、確かめるのですか』

「え、何もしないよ？」

『え？』

「君はもうバビルスの生徒だ。そして、僕はバビルスの教師。君達生徒を教え導くのが役目。だから今ここで何かして確かめる必要なんてない。その機会はこれからいくらでも訪れるのだから」

『では、なぜ……』

「君に話しかけたのは僕が君達の関係を知っているということを知ってほしかったのと、本当にちゃんとした意思疎通が出来るかどうか。いずれ他者に、他の生徒に理由無く危害を加えないかを確認するため。そして、それはこれからも君がバビルスを卒業するまで確かめさせてもらう」

『……私は、旦那様が悲しむことは絶対にしません。失礼します』

目を見れなくても感じる、強い意志の籠った視線と揺るぎない言葉を残して立ち去る生徒を、手を振りながら見送る。同時に認識阻害の術を解いた。あの様子だと特にこれといった心配はなさそうだ。ちゃんとした受け答えに意思疎通、冷静な状況判断に強い意志。踏み越えては行けない一線を超えなければ、どこにでもいる普通の悪魔だ。

「旦那様の悲しむことは絶対にしない、か。素敵な悪魔を妻に迎えましたね、イフリート先生？」

「…………やっぱりバレてましたか」

「おやおや〜、顔が真っ赤ですよ？熱でもあるんじゃないですか？」

「分かってて言うのはやめてください！」

「アッハハハ！！」

「……はぁ。それで、ティフィの事は理事長から聞いたのですか？」

「ハハッ…………フゥ。うん、そうだよ。理事長からは君たちの事は事前に聞いていた。あぁ、さっきルティフィさんにも伝えたけど、この事を知るのはバビルスでは理事長と僕だけだから安心してね」

「いえ、心強いです。さすがに理事長以外誰も知らないというのは、バレた時の対処が大変だと思っていたので」

「まぁ、そうだよね。ところで、ひとつ聞きたいのだけど、僕がルティフィさんに後一歩でも近付いたら燃やすつもりだったりした？」

「…………」

「ハハッ、そうか。それじゃ、僕は仕事に戻るよ。イフリート先生も巡回よろしくね」

「はい。失礼します」

笑顔の沈黙が答えか。いくら僕でも、イフリートの炎に耐えられるかどうかは分からない。

「命拾い……か」