焼却を望む画家 (ページ12)

今日:76 hit、昨日:57 hit、合計:3,463 hit

十一話ページ12

「まぁ、どの道。イフリート先生にはもっと強固なルティフィちゃんを縛る枷になってもらわないとね。なにせ、ピクトゥーラ一族の覚醒した家系能力は一歩間違えると魔界を滅ぼしかねない力を秘めているのだから。絶対に、彼女を敵に奪われる訳にはいかない」

「それほどの力を秘めているというのですか？ピクトゥーラ一族の『お絵描き』は、」

「あるよ」

「！」

オペラの言葉を無理矢理遮るように被せたサリバンの声は重くのしかかるような威圧が乗せられていた。その恐ろしさを覚える真剣な声に、オペラは思わず尻尾がピンッと伸びる。

「ピクトゥーラ一族の始祖たる悪魔は、描いた絵に命を吹き込むことが出来るという」

「命を、ですか」

「それも、ちゃんと自我を持った命。それはもう生命創造といってもいいかもね。使い方次第で、神にもなれる可能性がある」

窓の外を見つめるサリバンが何を見ているのか、オペラには分からなかった。

＊＊＊

本来なら家まで送っていきたい、なんだったらそのまま一緒に過ごしたいという欲を抑えて、家に帰るルティフィを見送る。この二人は夫婦という関係ながら、お互いの両親からの”ルティフィの位階”が6(ヴァウ)に上がるまで同居禁止”という言いつけを今まで守り続けている。

学校の外に出たルティフィは外壁の誰もいない場所に移動して、家系能力を使用した。ピクトゥーラ一族の家系魔術は『お絵描き』。その能力は魔力を込めた髪で絵を描くと、描いた絵が現実に飛び出したり干渉することが出来る。但し、生き物を描いても動き出すことや、食べ物を描いて食べることは出来ない。
しかし、それは従来の『お絵描き』の能力であり、ルティフィの覚醒した『お絵描き』の能力は不可能を可能にした。食べ物を描いても食べることは出来ないが、生き物を描きながら命令を下すことにより、飛び出た絵が動き出すのだ。
その分魔力消費量は半端では無いが、元々ピクトゥーラ一族は魔力を多く有する一族。中でもルティフィは一二を争う魔力量の持ち主でもあり、元祖返りの影響かさらに魔力量が増えた。描いた絵の百や二百、命令して動かすことなど大したことでは無い。

今回、ルティフィが地面に描いた絵は翼の生えた巨大な念子。”家に飛んで連れていけ”という命令を下しながら描き終え、ある言葉を唱えると絵は飛び出る。

『”セイリャント”』

ポンっと軽やかな音と共に飛び出た空飛ぶ巨大な念子に乗って、ルティフィは帰宅する。