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甘いものは ページ10

「Aちゃん、あげる。一口だけね」

「お嬢様、私より中原幹部に」

Aは中也さんを振り返った。フォークに刺さったイチゴのケーキからは甘い匂いがする。

「いいから、食べて」

その指示に従ってAはそのケーキをパクっと食べた。ふわりと柔らかいスポンジが口の中でとろける。

「美味しいですわ」
「でしょー? なんかリンタロウがいっぱい買ってきたの」

エリス嬢は西洋人形についているガラス玉みたいな青い目で私を見上げた。
エリス嬢にお会いするのも半年ぶりだ。

上層部の者しか使えない食堂の長いテーブルにはずらりとスイーツが並んでいた。

イチゴのたっぷり乗ったケーキに色とりどりのベリーのタルト、シュークリームにプディング。燭台の灯りに照らされたそれらはどれも天上の食べ物のように輝いていた。

美味しそうだが、全部食べたら確実に太る。

「首領。我々より早く現場についた探偵社が紅葉の姐さんを連れ去ったとのことです。……恐らくは捕虜として。五大幹部の一翼を人質にとられては、迂闊に手が……」

中也さんはそんな私たちを他所に本題に入った。

「そうだねえ……」
首領はエリス嬢の椅子の後ろで考えこむ仕草をした。

Aはエリス嬢の口元を紙ナプキンで拭ったりあれこれと世話を焼きながら話を聞いていた。

「探偵社の社長をやろう。そうだ、闇討ちがいいい。外部の者にやらせれば我々は手を煩わせることなく、組合との戦いに力を使える」

それはないな、とAは思った。そもそも傘下組織で扱えるような探偵社なら、とうの昔にポートマフィアに潰されている。

だが中也さんも反論はしなかった。

挨拶をして食堂を出ると、
「手前はちゃっかり菓子なんか食いやがって」

と足元低い位置に黒い蹴りが入る。Aはそれをひょいと素早く飛び越えた。
「エリス嬢が仰るので仕方なくですよ」
「全く何で手前だけ昔っから特別なんだよ」

Aのヒールの爪先に踏まれる前に中也さんは素早く足を引っ込めた。

「それはですね」
エレベーターで下の階に降りる。
「私も昔は少女、だったからでしょうか……」


仕方ないのだ。首領はそういう趣味なのだから。

大宰元幹部や中也さん、それから遊撃隊長の芥川さんも年は同じくらいだし、マフィアに拾われた人たちでもあるけれど、特別だったのはなぜって、女の子だったからだ。

「そりゃそうだが」
あぁ気に入らねえとかなんとか言いながら、元居た部屋へ帰る。

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設定タグ:文スト , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/  
作成日時:2016年12月21日 8時

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