土曜は ページ8
その日は土曜日だった。久方ぶりに家へ帰るのを楽しみにしていたAに声をかけてきたのは中也さんだった。
「飲みに……ですか?」
Aは机の上に自分の諸々の荷物を置きながら振り返った。
幹部執務室の端の壁に向かう机がAの居場所になった。窓から夕日が差して白いはずの印刷用紙がほんのりオレンジ色に見えた。
「別に嫌ならいいけどな」
「勿論、行きます」
Aは少し慌ててそう答えた。急にそんな言い方をするので少し驚いたのだ。
「いいのか、男ばっかだしだぞ」
中也さんは楽しそうに笑った。誘いたいのか来てほしくないのかどっちかにして下さいと言うと、そこは殺られる前に殺りますと言うところだぞと笑われた。
どうもマフィアでは会話のセオリーが世間と違うのだ。
夜の港は今も昔も静かだった。忙しい街のネオンとは全く違う世界にあるみたいに、月が海にぼんやりと浮かび、深い海の青を煮詰めたような闇を優しく照らしているだけだった。
ポートマフィアがあるせいで地元の人は夜には誰も港へ近づかない。よって土曜の夜でもこの近くの店はがらんとして人がいなかった。
中也さんに連れられてAはカウンターの席の椅子を引いた。
上司の分まで外套を背もたれにかけたあとAはそこへ腰を落ち着ける。天井から吊られたいくつかの赤っぽいオレンジ色の白熱灯が小さな夕日のように店内を照らしていた。
「ああ、中也さん。久方ぶりだね。今日は女の子と一緒なのかい」
店主らしい男の人がニッコリと笑った。首領と同じくらいの歳だろうか。
橙の光の中でも白いのだとはっきりわかるYシャツはぱりっと糊がきいている感じがした。
「うちの後輩」
Aは指先をそっと撫でられたような心地がした。
中也さんが自分を人に説明するのにどんな言葉をあてがうのかと一瞬だけドキドキしたAはきっと"部下"の2文字が出てくるだろうと思ったのだが、中也さんの選んだ言葉はそれよりもっと柔らかいものだった。
そうですか、と言ってそのおじさまは楽しそうに灰色がかった瞳にAを映した。
「俺はいつもの、で、彼女はマスターに任せる」
全くメニュー名の出てこない注文を済ませると中也さんは頬杖をついた。
「いいんですか、私で」
「何が出てくるかわかんねえほうが面白えだろ」
と中也さんは瞳を覗きこんだおじさまから逃げるように目をそらした。
「そうですねえ」
中也さんの分を用意しながらおじさまはAによく話しかけてきた。
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2016年12月21日 8時