月夜の港に【文スト】

☆見舞いと嫌がらせ ページ6

昨日のこと。太宰さんが組織に捕縛されたらしいと聞いたAは、太宰さんの元へ向かった。

Aが階段を降りていくと、両手を鎖で繋がれた太宰さんは呑気に歌を歌っていた。

カン、カンとヒールの音がよく響いた。すると彼はゆっくりとこちらを見上げる。

「お久しぶりです太宰さん」

「久しいねぇ。Aちゃん」

「素敵な眺めですこと」

Aは階段を降りて太宰さんに近づいていく。

「ところでAちゃんは何しにきたの？」

太宰さんは首を傾げてみせた。

「お見舞いですわ。捕まった貴方の」

「半年ぶりにヨコハマへ帰ってきたら、なんとあの太宰さんが捕まっていると聞いて」

「その、手に持っているのってもしかして……」

太宰さんはAの持っている箱に目を移した。

「ええ、お察しのとおりたこ焼きです」

「Aちゃん……見てのとおり私両手が繋がれていて自分で食べられないのだけど」

「あら？ 食べるのは私ですよ？」

Aは、階段に、持っていた風呂敷を敷いて座った。

「いただきまーす」

Aは太宰をよそにたこ焼きを食べ始める。

「Aちゃーん！ お腹空いた！」

「そうですか」

ぐううううっという太宰さんの情けないお腹の音が聞こえる。

「食べさせておくれよ」

「いいですよ」

Aは立ち上がって、太宰さんのそばまで行く。割り箸でたこ焼きを太宰さんの口元へ持っていく。

「はい、あーん」

「あーん」

特に深い意味は無い。あつつ、と太宰さんは言いながら食べている。

「もうひとつ如何です？」

「Aちゃん？ なんだいそれは……」

太宰さんは、Aが差し出したたこ焼きを見て目を見張った。

「温かい方がよろしいかと思いまして」

「温かいっていうかそれ燃えてるよね？」

太宰さんの仰る通り、Aの持つ箸先から赤く燃えている。Aが付けた火だ。

「どうぞ」

「Aちゃん！ 早まらないで！」

太宰さんは逃げようとするも両手を鎖で繋がれていて動ける範囲が限られている。

「はやくしないとたこ焼きが灰になりますわ」

太宰さんにたこ焼きが触れると、何事も無かったかのように火が消える。焦げていた箸も元の通りだ。

先ほどと同じように太宰さんはたこ焼きを頬張っていた。どうやら地味に口の中の傷に染みるようだ。

「Aちゃん、水ある？」

「ええ。どうぞ」

Aは風呂敷の上に置いていたコップの水を差し出した。飲みやすいようにストローがついている。

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