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上司 ページ35

「8つも年下の上司ってどう思う?」

Aにとっては何回目かのこの店であるが、中也さんに連れられてここへ来ると、梶井さんに広津さんとメンバーが揃った。

今日もオレンジ色の光がピカピカにみがかれたテーブルの縁を照らしている。

三社異能力戦争の集結を祝って幹部最上層階の首領、紅葉さん、中也さんの3人でロマネの64年物を開けていたのを見てしまったAが拗ねているのを見かねて中也さんが連れだしてくれたのだ。

基本的に黙って飲んでいる中也さんや広津さんとは逆に、梶井さんはお酒が入るとよく喋る人だった。

「しかも自分の元教え子! 准幹部なんて嬉しいけど複雑だよね」
「そうですねえ」

おじさまは相槌をうった。菜種の油を塗ってきゅっきゅっとよく拭いたみたいな顔に優しい笑いじわが刻まれている。なんだかおじさまが笑うと傘を閉じるみたいだとAは思うのだ。

「私にとっては二回りも若い上司ですがね」
ひゅうっと白い煙が吐き出される。

なんという銘柄なのか知らないし、煙草なんて吸う気はないのだけれど、Aは広津さんの吸っている煙草の匂いが好きだ。ずっと前から知っている匂いだと思う。

今日は広津さんも喋っていた。さっきは部下にジイサン呼ばわりされているのだと珍しく愚痴をこぼしていた。マフィアの中では50を過ぎればおじさんというよりおじいさんになってしまう。裏社会の異能者がみんな長生きするわけではないのだ。


「よせよ。ここじゃ派閥も役職も関係ねえんじゃあなかったのか?」


中也さんはグラスの水滴をそっと長い指でなぞりながら言った。たぶん今ドキっとしたのはAだけだ。それに気づいたのか梶井さんがにやーっと笑い、その様子をおじさまが見守るようにして見ている。

「そうですね」
青白い濃い煙が煙草の先から上っていく。役職は関係ない……というのがAの頭の中で繰り返される。

「はははははっ! こりゃァめでたい。さすがは僕の教え子だ。そうは思わない?」
「私もそう思いますよ」

おじさまはふふっと楽しそうに笑った。Aにはそれがグラスの向こうの世界みたいに見
える。右隣の中也さんだけが不思議そうな顔をしていた。

これでもうちょっーとだけお酒弱かったらねーという梶井さんの声が不思議なくらいに遠くに感じる。

「なんのことだ?」
中也さんと目が合ってしまうのでAは少し困った。

中也さんの問いをごまかすわけにもいかず、Aは次のように言った。

   ゝ   →←夜明け



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設定タグ:文スト , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/  
作成日時:2016年12月21日 8時

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