双黒 ページ30
その夜のこと。執務室へ帰ってきた中也さんはすこぶる機嫌が悪そうな顔をしていたが、足音が踊るように軽かった。
「何か良いことでもあったのですか」
仕事用の携帯電話の待ち受け画面を眺めていたAがパタンと折りたたんで見上げると何も良いことなんかねぇよと誤魔化すようにそっぽを向いてしまう。
「当てましょうか?」
Aが敢えて挑戦的に出ると
「当ててみろ」
とひょいと眉を上げてみせた。中也さんが機嫌が悪くてもこういう発言には興味を示すことをAは知っている。
「探偵社に手を貸すのですね」
「間違っちゃいねえが……」
「しかも助ける相手が太宰さん。違いますか」
「そうだ」
ゆっくりと吐き出すように言い放った中也さんは一人がけのソファーへお尻から倒れこむようにして座った。
「探偵社との協力は首領もやむを得ないとお思いになったようでしたので」
「それで、向かう先は」
「Qが閉じ込められている施設だ。手前が前に行ったのより向こうの山ン中だ」
Aが立ち上がろうとすると中也さんはそれを制した。
「手前はここで待ってろ」
低い、冷たい声。Aは少し驚いた。
「え、でも」
「首領の命令だ」
「……」
こんなことを言われるのは初めてだった。この半年、Aはほとんどどこへでも中也さんの任務に付いて行っていた。それが仕事だった。
「迎えは頼んだ」
そう言って中也さんはひらりと外套を翻して出て行ってしまう。迎えと言ってもAは車を運転できないので藤原さんに頼むことになる。Aは嫌だった。危険なのは百も承知だが、理由も何も聞かないで大人しくしているのは嫌だ。
中也さんの去ったあと、最上階の首領の部屋へ向かった。
「首領」
黒服に通してもらって入ると、首領は窓の外を眺めていらっしゃった。首領の視線の先にあるのは日の落ちたヨコハマの街。そういえば私と入れ替わりに広津さんが出てきた。
「ああ笹原君。君には執務室に居るように伝えてもらった筈だけど」
「はい、中原幹部から伺っております」
「私の命令は絶対だ。今君がここへ来ることなど、あってはならない筈」
首領は赤くて黒い瞳をこちらへお向けになった。指先を撫でるような御声。Aは背中あたりに少し緊張を覚える。後ろで銃を構える音がしたからだ。たしかに、Aは部屋にいろという首領の銘に背いた。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。首領は利益のない殺傷はなさらない。昔太宰さんもそう言っていたではないか。
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2016年12月21日 8時