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時計 ページ24

キンっと音でもしそうなくらいに冷えた晩秋の夜。締め出された戸にもたれ掛かって見上げた星空に月はない。今より空がもっと広く、高く見えた頃のことだ。

「ねえモトジロウ、今日は月がないのね」
「まだ登って来ないだけだよ」

今日はフシマチヅキだからねとモトジロウは闇の中でそう言った。その息が白く見えていた。モトジロウはくさめを一つして、それから細長い身体をぶるっと震わせた。

「あらあら」

春香は懐からチリ紙を出してモトジロウに差し出した。これでは世話をする方とされる方が逆みたいだ。
「ありがとう。はるちゃんは平気かい。羨ましいね」

それで洟を拭いながらモトジロウは笑った。

「寒いでしょう」
寒さ知らずな春香は手を伸ばしてそっとモトジロウの手に触れた。春香よりひと回りもふた回りも大きなその手は何時だって熱でもあるみたいに温かい癖に寒がりなのだから不思議だ。


春香はすぐにその手を離した。モトジロウに手を引かれて歩くのも、なんとなく恥ずかしいというか、何故だかわからないけれど嫌に思うようになってきた頃だった。

モトジロウはその様子を見て楽しそうに寂しそうに微笑んだ。
「うはは! さてさて、次はどうしましょうねぇ」

モトジロウは寧ろ楽しそうに笑った。反省する気なんてこれっぽっちもないらしい。
もともと霊能者の母と科学者のモトジロウは意見の対立が激しかった。一度霊現象の話になると霊的現象は科学で説明できる幻覚だとするモトジロウに母はそんなことはないの一点張り。

だってそれは母の異能を全否定するものであるからだ。それを失えば、マフィアに居る理由がなくなる。

それと比にならないくらい、母は多分記憶にある限りでは一番怒っていた。叱られたというより怒っていた。母の中に母親でない何かを見た気がした。

帰ってきた父に閉めだされている理由を話すと困ったように眉尻を下げて家へ上げるように取り計らってくれた。

次の日を全部費やしてモトジロウが時計を直すのを固唾を呑んで見守っていたんだっけ。八角形の枠に文字盤はローマ数字が書かれていた。

時の知らせを嫌う母は鐘のついていない時計が好きだった。ちなみに母はカチカチという秒針の音も嫌いだったが、当時はその秒針もついていなかった。


八角形の枠の時計……あの時計は何処へ行ったのだろう。まだあの壁にかけてあるのだろうか。

太宰さん→←   ゝ   



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設定タグ:文スト , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/  
作成日時:2016年12月21日 8時

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