ケーキ ページ15
「痛いのは嫌いだよ」
目を真っ赤にした梶井さんが涙を流した。Aはため息を1つついて言う。
「挨拶の儀式が長すぎるのがいけないのですよ。懲りたらもっと短く済ませてくださいね」
久しぶりの再会なので私も楽しんじゃいましたけどねとAは言って梶井さんの上を降りた。
「大サービスでリクエストにもお答えしましたよ。めつぶし」
梶井さんに手を差し出す。彼はそれを掴んで立ち上がった。
「頼んでない!」
「梶井さん、檸檬は黄色なのですよ」
「知ってる!」
相変わらず本題に入るまでが長いことだ。
「只今戻りました」
まだ檸檬の味のする口でそう言うと例の上司は事務机でうたた寝をしていた。もう日が沈んであたりは暗い。窓からは都会のアルゴンだの発光ダイオードだのの人工的な光ばかりがが見える。
Aはそっと椅子を引いて、中也さんに毛布を掛けておいた。
どうせもう気づいて意識はあるんだろうけれど。そうでもなければ今ここで息をしている筈がない。
暫くはAのパソコンのキーボードの音だけがしていた。
事務仕事をやりたがらない上司がいるもので、Aの仕事は倍になる。
打ち込んでいる内容を口外してしまうと首領に消されてしまうので、昔の話でもしようと思う。
Aの家は町の外れにあった。あくまで傘下組織の遺体処理業社の立場なので暮し向きは質素だったが、ポート・マフィアから直接仕事を受けるようになったおかげでAは幼いころはお嬢様でいられた。
梶井さんは組織のほうからの命令でAの家庭教師をやっていた。もともとマフィアのAと同い年くらいの子供に最低限の読み書き計算を教える役だが、中身があれなので懐いたのがAだけだったというだけだ。自分で言うのもあれだが、Aは飲み込みの速い子だったと思う。
それで首領は高等教育を受けさせつつ数多のバイトによる社会勉強と西方の情報収集をさせたわけだ。
「はっ、」
背後でバサッと音がした。丁度Aが事務仕事を終えたところだった。
あぁしまったと目を覚ました中也さんは時計を見て呟いた。
「つい気持よく眠っちまったじゃねえか!」
悔しそうに中也さんは机を1つ拳で叩いた。Aは思わず笑った。
異能で上司を眠らせるなとまた怒られる。眠気に負けたのは中也さんなのに。
「首領にシュークリームもらったから手前にもやろうと思ったけど」
64人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2016年12月21日 8時