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   ゝ    ページ14

そうだ。彼の言うとおり小吹春香はAの偽名なのだ。

「外の世界はどうだったかな? お嬢様」
梶井さんはニヤリと笑った。いや、もともとニヤけているか。

「矢っ張り美しいでしょう。檸檬の形は」

キミだけだよ、ボクみたいな天才について来られる子は。そう言って頭の上へ優しく置かれた手は何時だって熱でもあるみたいに熱かった。褒められるというのは、純粋に嬉しかった。

それで幼いAは一生懸命勉強したのだ。瞳を閉じれば瞼の裏に浮かぶくらいにはっきりと記憶に刻まれている。

「聞きましたよ。今は指名手配中だとか」
「いやァ、僕の檸檬の素晴らしさに漸く世間が気がついたのだよ」

典型的な悪の科学者みたいな笑い方をすることだなと思いながらAはその懐かしい家庭教師の手の温かさを思い出していた。

Aは化学の他にも大抵何でも彼から教わった。住み込みで雇われていたから、おはようからおやすみなさいまで一緒にいたことも少なくなかった。
ちなみにエリス嬢は彼のことが苦手でいらっしゃる。

「懐かしいですね」

そう言ってAは梶井さんの手へ触れた。寿司職人には向かなそうな手の温かさ。

「あれェ、そんな触り方何処で覚えたんだい?」

肩に手が回ってくる前にAは彼の左足をすくった。次の瞬間にはAは彼の上へ馬乗りになってその喉元へ短刀を突きつけていた。
「おっと、こりゃア魂消た。強くなったものだね。でもキミのお得意の目潰しはボクには効かないよ」

梶井さんはヘラヘラと笑った。勿論Aがそれ以上刃物を進めないのを知っているからだ。

「先生、死ぬ前に、私をもっとよく見てくださいますか」
と言ってAは梶井さんのゴーグルを頭の方へ押し上げた。彼と直に目が合う。

「……ところでお嬢様、此れを知っているかな」
梶井さんはポケットから檸檬を取り出した。Aは慄然した。

「やだな、そんな怖い顔しないでよ。此れは正真正銘、本物の檸檬だよ」
「それ、私にくださる?」

「良いよ、大切にするのだよ」
と言って梶井さんは私の左手に檸檬を渡した。ひんやりと冷たい檸檬は本物だった。


「檸檬は絞ると美味しいのですよねぇ。ところでご存知ですか? 実より皮のほうを絞ったほうがより檸檬を味わえるのですよ」

ぎゃぁぁぁという悲鳴が地下に響き渡った。


「ああ、動いたら刺さっちゃうじゃあないですか」
とAは短刀を鞘へ収めた。

ケーキ→←   ゝ   



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設定タグ:文スト , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/  
作成日時:2016年12月21日 8時

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