ゝ ページ2
それは僕がそこへ通うようになって4日目のことだ。
その日はコンビニへ行かなかった。というのもあの背の高い男の視線が痛かったからである。その日は代わりに川を遡って上流の方へ歩いて行ってみた。
そうして、次の橋の下で眠ることにした。いつもより早い夜だった。
「あ、あのっ」
聞き覚えのある声だ。
見上げると、そこへ彼女が立っていた。
僕は目を閉じた。また開いた。それでもやっぱり彼女はそこにいた。ふわっとあのコンビニと同じ匂いがした。おでんのにおいだ。
「おでん」
彼女は僕の前へしゃがんでそっと白い紙カップに入ったおでんを指し出した。ふわりふわりと白い湯気が僕の目の前で揺らいだ。
「その、よかったら、どうぞ」
彼女は仕事の時と違って遠慮がちに僕の目を伺った。
それはまぎれもなく、僕だけに向けられた目だった。赤紫色の瞳が少し怯えているように揺れた。
「本当に、いいの」
僕は何度も確認した。でも遠慮する場合じゃなく、お腹が空いていた。
僕はそのおでんを汁まで噛むように味わって食べた。飴色の大根は噛むとじわりと汁が溢れてきた。
「名前は、なんて言うの?」
「中島敦。……君は?」
「あたしはA。Aちゃんってよんで」
Aちゃんは長くて艷やかな黒髪を右側だけ後ろへ払った。
仕事の時と違って、髪を下ろしているし、白のブラウスにワインレッドのスカートをはいて、上には黒い暖かそうなカーディガンを羽織っていた。
「うん」
それから年は幾つなんて話をして、お互い18だと知った。
まだいろいろあるんだよとAちゃんはパンやらおにぎりやらを黒い革のハンドバッグから出してきた。彼女は何も聞いてこなかった。
僕がこんな生活をしていることへ、一切の言及をしなかった。だから僕は安心していられたのだ。
「あの、ごめんなさい」
なぜか申し訳無さそうに謝った。どうして謝るのかと聞くと、彼女は昨日バイトを上がったあとに僕の後をつけてきたんだと言った。
「いや、そんな、食べ物をくれようとしていたんだから」
僕は申し訳なくなった。彼女はわざわざ探してくれたのだ。
それに今日は寝床を移動していたし。
64人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2016年12月21日 8時