序章 橋の下 ページ1
まず、当時僕が第一に問題としていたことは、食べ物がなかったことだ。
貨幣経済の浸透した世の中で金品の類を持ち合わせていなかった僕は、ゆく当てもなく、ただ着の身着のまま、街を彷徨っていた。
第二の心配はゆく当てがないことだった。街は、行くべき場所、帰る場所のある人たちが忙しそうに行き交っていて、自分にだけはそれが無いということを強く思い知らされる。
街のはずれの住宅街へ出れば、家々の暖かいオレンジや黄色の光が僕の影の色の黒く濃いことを教えてくれた。日が沈むと、外はじんわりと冷えるようになってきたころだった。
身寄りもなく、誰からも必要とされず、死ぬこともできず、かといって盗みを働く勇気もない。
いつか読んだ小説の主人公のように僕はどうにもならないことをどうにかしようとして、とりとめもない考えを辿りながらコンクリートの壁にもたれ掛かっていた。
僕にとってこの小さな橋は降らない雨のやむのを待つ都の門であった。
いつも眠りにつくにはだいぶ時間がかかった。
街の灯りが消えても、目を開けている時もあった。
ぼんやりとした意識の中で、僕はいつもずっと明るい場所があることに気がついた。それはコンビニエンスストアだった。
僕はそこへゆくことを覚えた。初めは僕が行ったら、不審だと通報されるかもしれないと心配して、入るのに1時間店の前で入ろうかよそうかとそれこそ通報されかねないくらいにうろうろしていたが、一度心を決めてしまえば簡単なことだった。
まず、ドアが開くと暖かい空気がじんわりと肌に染み込んだ。
「いらっしゃいませ」
レジには、若い女の子が立っていた。
桜の花びらみたいな唇をきゅっと引いて、ニコッとこちらへ微笑みかける。お客さんみんなにそうしているんだろうけれど、その時僕は安心感を覚えた。
何日かそこへ通ったけれど、いつも同じ時間にいけば、彼女はいつもそこに立っていた。
レジは2人で番をしているらしくて、もう一人は眠そうな目をしたひょろっと背の高い若い男だった。年は二十歳を少し過ぎたくらいだろうか。
たまに彼の姿が見えない時があったけれど、そういうときはカウンターの影でこっそり眠っていたらしかった。
もちろん、金がないから、僕は何もものを買えなかったんだけれど、色とりどりの雑誌や新聞を手にとって読むことができたし、時刻を知ることもできた。
表が明るくなるまでそこにいることもあった。いつも10時になると、シフトが入れ替わっていた。
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さなえ@Love伊織(プロフ) - 百合姫さん» ありがとうございます。行間、ですね。参考になります!もう少し開けてみようと思いました。なにより読んでくださってありがとうございました! (2017年5月24日 0時) (レス) id: c77dc7fe4b (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - たいです。勿論、高評価させて頂きました。長文、三つ前のコメントの誤字、失礼致しました。最後になりますが、さなえ@Love伊織様。イベントに参加して頂き有難う御座いました。此れからも、他の作品の更新など頑張って下さい。応援しています。 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - ありませんが、横書きの場合文が詰まっていると辿るのが少し難しいと感じたので。と、云っても此の書き方で行く、とさなえ@Love伊織様が決めていらっしゃるのでしたら、其れでも全く問題無いと思います。小説の書き方に沿った、素晴らしい物でした。私も見習い (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 文の間に改行を設けてはいかがでしょうか。一話を一つに纏める、ということでしたら文字数の影響もあるとは思いますが、見たところ其のような形式で書かれていないようなので、余裕を持って間を空けても良いと思います。勿論、書籍の様な縦書きの物なら空白は必要 (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
百合姫(プロフ) - 素晴らしいと感じました。占いツクールではあまり見ない、硬い?文章ではないありましたが其れも魅力の一つだと思います。話の流れ、文の構成共に普段から小説を読み慣れている方には、よく合う物だと感じました。僭越ながら、アドバイスをさせて頂くと台詞と (2017年5月23日 1時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeEs/
作成日時:2016年12月21日 8時