検索窓
今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:41,410 hit

15 ページ16

夜は深く、町は静かに微睡んでいる。
向こうの方の壊れかけた街灯がちかちかと流れ星のように主張していた。



少し、疲れた。

久しぶりなのだからと返して貰えず、結局何刻ほど付き合わされたのかしら。
此方の身にもなって欲しい。




『有難う御座いました。』

それだけ伝えて車を降りた。
今日会った彼は沢山のお金を持っているらしく
何時も専属の運転手さんが送ってくれる。
別れる時まで無駄に愛想を振りまかないで良いのは正直有難い。




階段を登るのが何となく億劫で、エレベーターを使い部屋まで帰ってきた。
カチャリと鍵を鍵を回し扉を開けるとふわり、漂ってきた蟹の香り。


『はぁ?蟹!?』


「おかえりーAちゃん。」


勘弁して欲しい。
部屋の中で寛ぎながらカニ缶を食べる太宰くん
嗚呼そうだ。あんな一言で太宰くんが来なくなってくれるはずが無かった。私が甘かった。


「カニ缶食べるかい?君殆ど食事をとっていな
いだろう?知っているのだよ」


『要りません食べません。食事はきちんととっ
てますのでご心配なく。』


「嘘だね。Aちゃん家の冷蔵庫、水しか入
っていなかったのだよ」

いつの間にか冷蔵庫を漁られていたとは。
そっと溜め息を吐き、戸棚に手を伸ばした。


『ほら、栄養剤です。』


「...ねぇ、真逆と思うけど君これが食事だな
んて言わないよね?」


『言いますけど?』

有り得ないとでも言いたげな太宰くん。
別に栄養剤と水で生きていけるのだから他の物を摂取する必要はない。何が可笑しいのか。


『むぐっ!』

無理やり口に蟹を入れられた。やめて下さい。

「私も大概だけどさぁそれはないよ。道理で軽
すぎる訳だ。」


『褒めて下さってるんですか?』


「怒っているのだよ!」

何故。
何が悪いのだと抗議の視線を向けてみたが、太宰くんは表情を変えない。


「よし、Aちゃんがこれからもそんな食生
活を続けると言うなら私は一日中この家に居座
る事にするよ」



『それだけはやめてください』

それは私の胃に穴が空く。
本当にやめて欲しい。

16→←14



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (91 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
217人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:とと | 作成日時:2019年9月10日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。