8話 ページ10
…どうやら小説と現実を混ぜて考えていたらしい。
若武君は真っ赤になって、横を向いた。
「ちょっと思い出してただけだ」
黒木君が呆れたように言った。
「小塚、今度はホームズでも貸してやれよ。若武センセの頭が冴えるようにさ。薊の少女シリーズでもいいよ」
若武君は、悔しそうにクチャクチャッと髪をかき上げ、話を反らした。
「上杉、普通の人間じゃないっていったら、誰なんだよ。プロレスラーとかか?」
小塚君が目を輝かせて叫んだ。
「きっとタイガー・マスクだ!」
「やめろよ」
上杉君がピシャリと言った。
「これだけの手がかりで犯人を見つけるのは、とても無理だ。諦めて盗難届でも出すんだな。保険がかけてあるはずだから、それで新しいのが買える」
「ダメだ」
そう言って若武君は、頬を歪め片目を少し細めた。
「保険は親が管理してる。秀明には乗ってっちゃいけないって言われてるんだ、それを無視したんだから、今さら盗られたなんて言いだせねーよ。メンツってものがある」
きっぱりと言い切ってから、呻くようにつけ加えた。
「それにこのことがバレたら、小遣いが無期限ストップだ。いくら新しいチャリが来ても、小遣いがないんじゃ動きがとれん」
黒木君がからかうように笑った。
「チャリか、小遣いか、それが問題だ」
途端、小塚君が思いだしたように口を開いた。
「若武、僕のDVD返せよ。先月貸しただろ、[アニメ・ハムレット]」
…よく借りてること。
若武君は大きく頷いた。
「わかった。お前から借りてるもんは全部返す。返すから、頼むから、お願いだから話の途中に口をはさむなっ!」
大声で怒鳴って、若武君は小塚君を黙らせると、グルッと私たちを見回した。
「とにかく、俺はやるぞ!俺のマウンテン・バイクを盗んだ犯人を必ず捕まえて取り戻す!!」
上杉君が少し皮肉げに笑った。
「じゃ、勝手にやれよ。俺は下りる」
若武君の顔がすっと真剣になった。
眼鏡の向こうの上杉君の目も、もう笑っていない。
「今週の三谷大塚のテストは、上位をキープしたいんだ。勉強時間が必要だ。お前もそうしろよ。メンツより成績だ。小遣いは諦めろ。じゃあな」
そう言って上杉君は背を向け、私たちを残して行こうとした。
『悪いけど、私もパス』
皆が驚いたように私を見る。
ただでさえ関わる必要のある人間が増えたのだ。
これ以上の厄介事はごめんだ。
私も上杉君に続いてその場を去ろうとした。
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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時