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7話 ページ9

差し出した私の指先には、黄色のビニールが粉のように付着している。

『この様子だと切ったと言うより、引き千切ったと言うほうが近いかもしれないわね』

若武君が目を見張った。

「ダイヤル錠を開けずにチェーンを引き千切った!?」

『おかしいでしょう』

そう言った私の傍で、小塚君が大声を上げた。

「分かった!犯人は、頭が悪くて、力のある奴なんだ」

黒木君が小塚君を見て、少し笑った。

「それ、お前じゃないの」

小塚君は膨れて横を向き、隣で若武君が首を捻りながら腕を組んだ。

「力の強い動物とか、かな。ゴリラとか…」

立花さんが叫ぶ。

「何でゴリラが突然秀明に現れるわけ!?」

若武君は嫌な顔で立花さんを見た。

「例えばの話だろ」

「例えが悪いわよ」

言い返した立花さんと若武君が睨み合っているが、私はそれに構わず言った。

『壊れたチェーンがどこかに落ちているはずよ。捜して、それが手掛かりになるわ』

それで皆はそこら中を引っ掻き回し始めた。

私はその間に、道幅を歩幅で計ってみた。

…かなりギリギリだけれど、車が通れる道幅ね。

すると、嬉しそうな大声が上がった。

「あったっ!」

振り向くと小塚君が道路の脇の側溝の中から、ドロに塗れたチェーンを持ち上げていた。

「貸せよ」

若武君がそれを取った。

「ひでえ…」

見ると私の思った通り、ダイヤル錠はかかったまま、チェーン自体が途中から切れている。

「小塚、これ切ってみろよ」

上杉君が言ってチェーンを小塚君に渡した。

「目一杯、引っ張ってみろ」

小塚君はおずおずとそれを掴みながら、上杉君を見た。

「もし切れても、ボクは犯人じゃないぞ」

本気で心配しているところ、小塚君は4人の中で一番力が強いのだろう。

「早くやれよ」

若武君が苛立たしげに言い、小塚君は顔が真っ赤になるほど力を込めて両手でチェーンを引っ張った。

けれどそれはビクともしなかった。

「オッケー」

上杉君が短く言って、レンズの向こうでその目を静かに光らせた。

「小塚にも切れないってことは、かなりの強さだ。犯人の力は相当だな。普通の人間じゃないかもしれない」

若武君が、ジロッと立花さんを睨んだ。

「やっぱりゴリラだ」

「サスペンス小説じゃあるまいし」

もしくは、生物ではない何かの力が加わったか。

私の得意な、機械とか…。

すると小塚君が、はっとしたように若武くんを見た。

「若武、僕の本返せよ。先月貸しただろ、[サスペンス傑作集]」

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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時

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