6話 ページ8
「犯行現場を押さえられたかもしれなかったのに」
前を歩いていた黒木君が、足を止めて若武君を振り仰いだ。
「出くわしてたら、それこそ危ねーよ」
そう言って黒木君は拳を上げ、親指でトンと若武君の心臓を突いた。
「やられるぜ」
青く見えるほど澄んだその目が、一瞬ギラッと光って、若武くんを射止め、若武君は息を飲んで立ち竦んだ。
立花さんや、小塚君も。
黒木君はすぐ、さっきのようにふっと笑い私たちに背を向け、また階段を下りていった。
「若武、チャリ、どこに置いたんだよ」
いちばん先頭にいた上杉君がフロアに足を下ろしながら言い、若武君は急いで階段を走り下りると、上杉君の傍をすり抜けて玄関脇のドアに歩み寄りながら言った。
「こっちだ」
それは秀明ビルの西側に出るドアで、細い通りを挟んだ向かい側はパチンコ屋の裏口、隣はスナックだった。
脇には秀明の非常階段があって、その下に青いゴミ箱が三つ置いてある。
「この辺」
立ち止まったのは、電柱の脇だった。
「盗難防止用チェーンで、ここにがっちり縛り付けといたんだけどさ」
若武くんは脚を上げ、バッシュの底をグイッと電柱に押しつけた。
「チェーンごとやられたんだ」
私はあるものを見つけ、つい叫んでしまった。
『若武君、その足どけてっ!』
私の声に、若武君は反射的に飛び退いて、自分の靴の裏を覗き込んだ。
「なんだよ」
私はそれには答えず、電柱の表面を擦った後、アスファルトの上を撫でる。
指に付着したもの、これは多分…。
『盗難防止用チェーンのビニールコーティングは、黄色ね』
若武君が驚いたように顔を上げた。
「どうしてわかった?ここに来る途中で、新しいのを買ったばかりだぜ」
『鍵のタイプは?』
つい立て続けに質問してしまった上、声も鋭くなってしまった。
けれど若武君もつられたのか、真剣な口調で答えてくれた。
「ダイヤル錠」
『何連?』
「6連」
『それ、おかしいわね』
私たちの間の緊張が途切れ、立花さんが聞いてきた。
「何がおかしいの?」
私は立ち上がり、皆の方に向き直った。
『6連のダイヤル錠なら、簡単に開けられるわ』
「本当?」
立花さんの疑問に、黒木くんが頷いた。
「耳で音を聞きながら、数字を順番に試していくんだ。6連なら、2分もあれば軽い」
『けれど犯人は、どうやらダイヤル錠を開けなかったみたいね。代わりにチェーンを切っている。見て、チェーンのビニールコーティングの切れ端よ』
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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時