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35話 途中まで貴和SIDE ページ37

『…ご飯を炊けば炊飯器から泡がでる。包丁を使えばまな板にささる。火を使えばフランベみたいになる。』

桜田はやけになったように続けた。

『裁縫もニガテよ。手縫いで指の薄皮も一緒に縫ったことがあるわ。歌も下手だとよく言われる。ナスを食べるくらいなら、舌を噛むわね』

一息で言いきり、何故か得意気な顔をする桜田に、つい吹き出してしまった。

「ふははっ、炊飯器から泡って、何があったんだよ、まな板っ、ナスっ、」

怒られると思ったけど、笑いが止まらない。

そんな俺を見て、桜田も笑いだした。

俺と桜田が、初めて心から笑い合えた瞬間だった。

※※※
ASIDE

次の日、私は集合時間より大分早く駅に来ていた。

昨日はつい余計なことまで話してしまった。

彼といると必要以上に気が緩んでしまう。

以前はこんなこと無かったのに。

…私が、私じゃないみたい。

足音がして、顔を上げると黒木君と若武君が来ていた。

そしてすぐに上杉君と小塚君が来て、その時には立花さんとお兄様が見えていた。

黒木君以外の3人は、お兄様を見るなり、ほとんど直立不動の姿勢を取った。

「すげっ、本物…」

ポツンと言った小塚君の頭を、若武君が小突くようにしてお辞儀をさせながら、自分も額が床につくほど勢いよく頭を下げた。

「立花さん、こんにちはっ!」

お兄様は少し頷いて、ムスッとした顔で言った。

「誰が切符を持ってるんだ?」

「黒木が持っています」

若武君は目がお兄様の表情を少しでも見逃すまいとして、キラキラしている。

「ここにあります」

黒木君が、内ポケットからチケットを出しながらお兄様の前に歩み出た。

「でもお渡しする前に一つ、お願いしたいことがあるんです」

そう言って黒木君は、お兄様の耳に口を寄せ、何か囁いた。

お兄様は、驚いたように目を見開き、視線を辺りにさまよわせながら一心に黒木君の言葉に聞き入って、やがて言った。

「お前、大胆だな」

黒木君はニヤッと笑った。

「背に腹は代えられませんから」

お兄様もニヤッと笑った。

「よし、乗った。面白そうだ。結果も報告しろよ」

黒木君はボストンバッグを持ち上げると、お兄様といっしょに駅のトイレに入っていった。

待つこと、およそ10分。

二人は、ヘルメットにツナギの作業服、肩から黒い工具箱をブラ下げて出てきた。

二人とも背が高いので、ヘルメットで顔が隠れると大人に見える。

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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時

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