23話 ページ25
鈴木さんにそう言われて、若武君は、ムッとしたようにその目を光らせた。
「俺のマウンテン・バイクは、ゴミじゃないですよ」
はっきりとそう言ったそのとき、若武君は思ってもみなかったことだろう。
それから数分後に自動車のスクラップの山の中から、グチャグチャに曲がった自分の自転車を発見し、思わずゴミだと呟くことになるとは。
新品だったマウンテン・バイク、それはまったくはっきりと、ゴミ以外の何ものでもない形で発見されたのだった。
「いやあ、あってよかったと言っていいのか、気の毒だと言っていいのか複雑だが…よかったら、持って帰りなさい。嫌ならここに置いていってもいいよ。処分しておくから。ま、気を落とすなよ。男なら、このくらいのことは乗りこえなくちゃ」
鈴木さんの声が空しく聞こえるほど、若武君は肩を落とし、横倒しにされた自転車の前の地面にしゃがみこんでしまった。
「ちっきしょう…」
「ね、宝石かマイクロフィルムの隠されていた跡を捜そうよ」
立花さんがそんなことを言い出し、皆が立花さんを見て小塚くんが言った。
「立花も[ルパン対ホームズ]を読んだの?それとも薊の少女?」
黒木君が、少し笑って若武君の傍に片膝をつき、その肩を抱きながら上杉君を見上げた。
「上杉、早く調べろよ。でないと若武と立花とが、ルパン・ホームズ物語路線で証拠をメチャクチャにしちまうぜ。ここは一つ、感情を交えないお前の論理展開に期待したいところだ」
上杉君は頷いて、自転車に歩み寄り、タイヤの方からゆっくりと観察し始めた。
慎重な手つきで折れたスポークやパンクしたタイヤに触り、ペダルをひっくり返しひん曲がったトップチューブの様子を調べる。
そのうちに
「小塚、桜田、ちょっと」
振り返って小塚くんと私を呼び寄せた。
「どうしたの?」
上杉君が自転車の傷を指さした。
「傷の中に、所々緑色が入り込んでるんだ。これって塗料だよな?」
小塚君がポケットからルーペを取り出し、調べ始めた。
「そうだね。道具があれば取り出せるんだけど…」
私はバッグから、持ってきていた工具箱を取り出した。
『これの中に、使えそうなものがあると思うわ』
小塚君は暫く箱を漁って、ピンセットを取り出した。
「桜田、この傷ってお前から見てどうだ?」
近づいて見てみると、かなり細かい傷がついていた。
『これは工具によってつく傷だわ。多分何かに自転車が食いこんでしまって、工具を使って外したのよ』
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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時