22話 ページ24
黒木君にくっついて私達は工場の門を潜り、事務所らしい建物のほうに歩いて行った。
そのドアの脇にはツナギを着たハタチくらいの男性が立っていて、黒木君を見つけると親しげに笑いかけた。
「よう黒木、久しぶりだな」
黒木君は立ち止まってドアの方に目をやった。
「話、つけといてくれた?」
その言い方はかなり横柄だった。
「電話で話しただろう」
「もちろん」
そう言って男性は手を伸ばし、トントンと黒木くんの背を叩いた。
「中に入って鈴木っていう主任を呼んで、俺の名前を出せば分かるようになってる。俺はこれから別のバイトがあるから一緒にいられないけどさ」
「わかった。サンキュ」
あっさり言って黒木君はドアに歩み寄り、ノブに手をかけた。
その後ろ姿に男性が言った。
「また遊ぼうぜ」
黒木君はドアから中に入りながら振り返り、美しい笑顔を見せた。
「時間があったらね」
男の人はニヤッと笑って、黒木君がドアの向こうに消えるのを見送り、口笛を吹きながら門の方に歩いて行った。
年上の男性にあれだけの態度を取れる。
黒木君は、なかなかに興味深い。
「黒木って不思議だよな」
若武君がポツンと言った。
「どこにでも友達がいるんだぜ。いろんな年のさ。変な奴」
若武君たちも、よくは知らないようだ。
「出てきたぞ」
上杉君の声と同時に、ドアの向こうから黒木君が現れた。
中年の男性と一緒に。
「僕の仲間です。こちらは鈴木さん」
少し改まった口調で黒木君が言うと、皆と一緒に頭を下げる。
「よろしくお願いしまーすっ!」
これから試合でも始まりそうなそのムードに、鈴木さんは少し笑った。
「なかなか礼儀正しいね。いいことだ。君らの捜している自転車が見つかるといいが…こっちだ」
そう言って先に立った鈴木さんの後に、私達は従った。
「黒木の奴、一体何て話したんだろ。自転車がここにあることは、もう確認済みなんだろ」
若武君がボソッと言った。
数日前、黒木君が立花さんに言った言葉を借りるなら、きっと黒木君は対人関係のエキスパートと言えるのだろう。
昨日来たことを正直に話したら怪しまれる。
電話がきたのはかなり夜遅く、ほぼ間違いなく正式な許可は取っていない。
その辺りを見極め、交渉する。
人をよく見てる彼だからこそできることだろう。
「あるといいね。いや、あるかもしれない。何しろここにはいろんな人間が、こっそり粗大ゴミを捨てにくるからね」
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百合香(プロフ) - 夢主ちゃんのキャラがすごくよく、本当に原作のような話の進み方が好きです!勉強になります……。これからも、応援してます! (2022年5月29日 16時) (レス) @page3 id: 26b82cca33 (このIDを非表示/違反報告)
トメ - きょっちーさん、はじめまして!トメと申します。きょっちーさんに感想を送るためにアカ作りました笑このシリーズがとても好きで感想を送りたいと思っているうちにしばらく浮上されなくなってしまったので、再開してくださってとっても嬉しいです!続き楽しみにしてます! (2022年4月16日 13時) (レス) @page47 id: 702d0afd33 (このIDを非表示/違反報告)
ありしゅ(プロフ) - きょっちーさん、おひさしぶりです!もう浮上されないのかと思っていたのでとても嬉しいです!今までの書き方もよかったですが、今の書き方もいいですね!無理せず頑張ってください! (2022年4月7日 16時) (レス) id: bde42b2272 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - Reiさん» コメントありがとうございます!「おもしろい」と言ってもらえるのはとても嬉しいです。これからも読んで下さいね (2019年7月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
Rei - とてもおもしろいです。読むのが楽しみになっています! (2019年7月20日 14時) (レス) id: 6035a3040f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年7月11日 19時