遡行軍のスパイの話 (ページ37)

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37話ページ37

「いるか？」

スパンと襖を開けられる。

「……鶴丸さん。どうでした？」

私は押入れから顔を出した。
彼は片手で襖を閉めて部屋の真ん中に座り込む。

「言われた通りに一期が政府の人間に渡していた。」

「…そうですか。 …もし、何も変わらなければ明日決行します」

私も押入れから降りて鶴丸さんの前に座った。
「… まだ、教えてくれないのか？」

「……。」

「…そうか。なら質問を変える。一期以外の他の奴らをどうやって説得した？皆、審神者を殺したがっていたはずだ」

たしかに、粟田口は私の言葉に頷いてくれたが、他の刀剣はそうもいかなかった。
そんな都合の良い話があるわけない、審神者は俺が殺すなどと言い出したのだ。

「……事実を述べただけですよ。
貴方達が信じないのなら、現状は良くも悪くも絶対に変わらないと。
それに、殺すといっても言霊で縛られて終わるだけだと。」

「…なるほどな。通りで演練で皆が協力的だったわけだ」

いくら渡すだけとはいえ審神者の目を盗むのは大変だったと思う。

「感謝します」
私は頭を下げた。

「やめてくれ、感謝しているのは俺の方だ。
今回もそうだが、君には多くのことを教えてもらった。
もし君がこの本丸に来なかったことを考えると怖くなる」

「…多くのこと？」

身に覚えがない話に首を傾げる。
そんな様子の私に鶴丸さんはふっと笑った。

「あぁ。君に覚えがないならいいんだ。」

私はこの人に何を教えたというのだ。

「……覚えがないとはいえ、何か気になりますね」

「そうか？」

「はい。とても」

教えて下さい、と言えば、なら君も教えてくれと言われて即座に黙った。
そういうのはズルイと思う。

「君はそういう所があるよなぁ…」
そう言いながら彼の手が私の頬に伸びた。

「別に、隠したいわけではないんですが」
彼の手がくすぐったくて目をつぶってしまう。

「分かっているさ、君は賭けをしたんだろ？」

「……」

私はうっと言葉が詰まる。
この無言は肯定と取られてもおかしくない。

しかし、鶴丸さんはさして気にする様子も見せず、
「……君は優しいな。」
と、まるで愛しいものを見るかのような優しい瞳を向けた。
彼の瞳は初めて会った時とは大きく異なり
光を宿していた。